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綿密な取材に基づく圧倒的なリアリティ〜演出の魅力

片渕須直監督(第21回上海国際映画祭より)
片渕須直監督第21回上海国際映画祭よりGetty Images

本作は『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直による長編アニメーション作品。原作はこうの史代による同名漫画で、主人公のすずをのんが演じる。

本作の最大の魅力は、なんといっても画面全体から感じられる圧倒的なリアリティだろう。

衣食住から手仕事に至るまで、当時の人々の生活をそのまま写し取ったのではないかという精緻な描写。これは『火垂るの墓』や『はだしのゲン』といった従来の戦争アニメにはない新しい表現である。

では、なぜこういった描写が可能になったのか。鍵は、片渕自身が行った時代考証にある。

片渕は本作の制作にあたり、数年の歳月をかけて広島や呉の徹底取材を敢行。当時の街の地図だけでなく、住んでいる人の人となりや建物疎開(空襲に備えて建物を意図的に取り壊し防火帯を作ること)で壊された建物や食料配給の品目にいたるまで綿密に調査した。

そのため、本作の制作には一般的なアニメ映画の倍以上となる6年もの歳月が費やされたという。本作が日本アニメ史に残る傑作となった理由。それはひとえに、片渕自身の努力の賜物である。

本作は当初、63館という小規模での上映が予定されていた。しかし口コミで話題が広がり、その後484館まで増加。中には日本映画史上最長となる3年以上のロングランを記録するなど、異例の大ヒットを記録した。

日本アカデミー賞では、最優秀アニメーション作品賞を受賞。キネマ旬報ベスト・テンではアニメーション映画史上2本目となる日本映画第1位を記録。

映画のヒットを受け、2019年にはおよそ30分に渡る新しいエピソードを追加した、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(上映時間168分)が公開された。ちなみに、長尺版では声優の花澤香菜が演じる遊郭の女性・テルなど、オリジナル版にはない新キャラクターも多数登場。見る順番として、まずはオリジナルの129分版を観て物語の大枠を把握した上で、168分版でその世界の広がりを堪能するのがお勧めだ。

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