“すずさん”が見た戦争〜映像の魅力
本作の映像の最大の特徴は「ショートレンジの仮現運動」が採用されている点だろう。
アニメーションの制作では通常、まずアニメーターが動きのキーポイントとなる絵(原画)を描き、次にその間の動きを補完する絵(中割り)を描くことで錯覚的に動きを表現している(仮現運動)。
従来の日本のアニメでは、原画の間に中割りを入れない「中抜き」が多かったが、片渕は中割りを入れることで動き幅を小さくした(ショートレンジ)という。これにより、登場人物が目の前で生きているかのようなリアリティを表現できたのである。
また、本作では、すず自身が描いた絵や頭の中のイメージが随所に登場することにも注目したい。
例えば、冒頭とラストで登場する「バケモノ(人さらい)」には、戦死したとされるすずの兄・要一が反映されている。空襲のシーンで現れたサギを逃すシーンでは、サギをよく見ていた江波の海が呉の町並みにオーバーラップする。
また、すずが爆弾で晴美を失った後のシーンでは、暗闇の中で火花が散るように断続的なイメージが描かれる。
これは、カナダのアニメーション作家ノーマン・マクラレンのシネカリグラフィー(フィルムに直接傷をつけたアニメーション)をほうふつとさせる。
本作で描かれる戦争は、あくまですずの目を通したものであり、いわゆるパブリックイメージの戦争ではない。だからこそ、観客は彼女の見た世界を追体験し、彼女に感情移入できるのである。