映画全体を包み込むコトリンゴの優しい歌声―音楽の魅力
本作の音楽には、シンガーソングライターのコトリンゴが参加。オープニング曲の「悲しくてやりきれない」、エンディング曲の「たんぽぽ」をはじめ4曲を担当している。本章ではこの2曲について紹介しよう。
「悲しくてやりきれない」はザ・フォーククルセイダースによる名曲のカバーで、作曲は加藤和彦、作詞はサトウハチロー。朗々としたメロディと「空のかがやき」や「雲の流れ」といった歌詞のモチーフが空を映した映像とリンクし、後に爆撃機が行き交う悲しい空を予感させる。
「たんぽぽ」は、コトリンゴが本作に書き下ろした曲。「たんぽぽが綿毛となって飛んでいき落ちた土地に根を下ろす」という歌詞が、広島から呉に嫁ぎ、原爆で家族を失いながらも、呉の地で懸命に生きようとするすずの心情と明るい未来を表現している。
また、ピアノによるミニマルなメロディが、片隅に生きる生き物たちの日々の営みの尊さを暗示しているようにも思える。
なお、「悲しくてやりきれない」は元々、政治的な理由で発売自粛となった北朝鮮の楽曲「イムジン河」の代わりに制作された曲で、「イムジン河」の音符を逆にたどったらたまたま生まれたとされる。ちなみに同曲は、井筒和幸監督作品『パッチギ!』(2005)の劇中歌としても有名だ。
本作では、もともと特報のみに使用される予定だったが、片渕が再録した音源を気に入り映画冒頭に使うことになったという。偶然の産物による曲が、偶然の閃きによって使用される。不思議な運命を感じるエピソードである。
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