世界配信を意識した『沈黙の艦隊』
劇場版でも、原作からの改変が見受けられるだけに、全く違ったストーリーになる可能性もあり、否が応でも期待感が高まる。
アマゾンプライムでのドラマ版では、重厚な人間ドラマの上に、激しい戦闘シーンが上書きされ、劇場版を超えるスケール感となっている。
世界配信を意識したコンテンツに仕上がっている印象だ。もちろん、その要因として、迫力満点の映像のみならず、個性的なキャラクターを演じたキャスト陣それぞれの好演もあってのことだ。
マンガの実写化について、様々な議論が巻き起こっている昨今ではあるが、本作を鑑賞した原作者のかわぐちは絶賛したという。
このエピソードは、本作がそれほどまでの高クオリティーだったということの証明ではないだろうか。作品の骨格の部分は生かされたことも理由の1つだろう。
まさしく、単なるサブスクサービスを超え、製作から配信まで行えるアマゾンの力量を見せ付けた格好であり、同じくオリジナル作品を製作・配信しているNetflixの月額料金790円(広告付きベーシックプラン・税込み)よりも安い月額料金600円(税込み)で提供している。
実は、アマゾンプライムの月額料金は、日本だけ飛び抜けて安く設定されている。年会費ベースでいえば、アマゾンの拠点の米国では139ドル(約2万円)、英国が95ポンド(約1万7300円)、ドイツが89.90ユーロ(約1万4200円)と日本の2倍以上だ。日本向けは他国向けサービスが値上げする中、5900円と異質なまでに安価だ。
日本におけるサブスクのシェアは、アマゾンプライムが72.6%と、2位のNetflix(21.7%)、3位のU-NEXT(9.3%)を圧倒しているのだが、アマゾンプライムの総売上高に対する国別の比率では米国69%、ドイツ7.9%、英国6.2%に続き、日本は5.7%だ。英国やドイツよりも人口の多い日本市場にはまだまだ伸びしろがあり、食い込んでいけるという思惑が読み取れる。
この作品のヒット次第では、アマゾンによる日本向け作品の製作が増えていくことが予想される。ライバルのNetflixが先駆けて、日本向けオリジナル作品を次々と製作し、話題を呼んでいることも、アマゾンにとっては刺激となるだろう。
本作に関していえば、アマゾンという世界的ガリバー企業のスケールメリットをバックに、莫大な製作費が掛かっているであろうことは想像に難くない。それはキャストの豪華さのみならず、VFXを多用した上質な映像、リアルさを求めて防衛省や海上自衛隊の協力も取り付けるほどの“本気度”からも伝わってくる。
だが本作の本質は「人間ドラマ」だ。様々なキャラクターを持つ一人ひとりの登場人物の心情を読み取りながら、「世界平和」という遠大なテーマに向かうドラマの続きを、今から楽しみに待ちたい。
【作品概要】
タイトル:Amazon Originalドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』
配信日:Prime Videoにて世界独占配信中
話数:全8話
キャスト:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、松岡広大、前原滉、水川あさみ、田中要次、田口浩正、アレクス・ポーノヴィッチ、リック・アムスバリー、橋爪功、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、夏川結衣、江口洋介
原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平(1話、2話、7話、8話) 中村哲平(3話、4話) 蔵方政俊(5話) 岸塚祐季(6話) 脚本:髙井光 鎌田哲生 音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック) /楽曲提供:B’z
作品ページ
【公式X】@silent_KANTAI
クレジット:©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES.原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)
【関連記事】
「お芝居は正解がないから本当に難しい」Amazon Originalドラマ『沈黙の艦隊』出演・中村蒼、単独インタビュー
“平和ボケ”した日本人の目を覚ます…主人公の真の目的とは? 実写映画『沈黙の艦隊』はひどい? 面白い? 徹底考察&評価
クーデターの黒幕は? ラストシーンの意味は? 映画『終わらない週末』徹底解説&考察レビュー。オバマ元大統領製作の話題作