ジャネット・リーの“目”とアンソニー・パーキンスの“鼻”〜演技の魅力
本作の演技といえば、第一にジャネット・リーの“目”の演技は外せない。
例えば、4万ドルを横領し、カリフォルニアへと逃げているシーン。そして、ノーマンの部屋で、得体の知れないノーマンと会話をしているシーン。リーの目からは、戸惑いや恐怖を感じながらも、必死に平静さを保とうとする複雑な演技が見て取れる。
そして目といえば、シャワールームでの殺人シーンである。見開いたまま瞬ぎもしない彼女の目。その顔は、おそらく映画史上最も美しいデスマスクの一つに数えられる。ヒッチコックは、彼女の目と、彼女の血が洗い流される排水口をオーバーラップさせる。生気を失ったモノとしての目が、穴に擬えられる。
さて、そんなリーの“目”に対するのが、アンソニー・パーキンスの“鼻”である。自身の部屋で、リー演じるマリオンの会話をしている時の彼の鼻は、どこか鳥のクチバシのようでもある。
印象的なのは、私立探偵・アーボガストが彼のモーテルにやってくるシーン。アーボガストに問い詰められ、いささか神経質な口調で返答するノーマンは、マリオンが宿を訪れていないことを示すため、彼に宿帳を渡す。このとき、カメラは、顔を横にしてアーボガストの手元を脇から「にょーん」と覗き込むノーマンを、あごから映す。尖った彼の鼻が、まるで捕食しようと待ち構える鳥のクチバシのようにみえる。
ちなみに余談だが、アンソニーは、本作でのノーマンの演技があまりに印象的だったため、その後『サイコ2』(監督はリチャード・フランクリン)にも同じ役で出演、『サイコ3/怨霊の囁き』では、なんと監督も兼ねている。こちらも機会があれば見てみたい。