答えを観客に委ねた純粋なドキュメンタリー
監督・製作総指揮を務めた瓜生敏彦氏は、「三里塚シリーズ」で有名な、日本におけるドキュメンタリー映画の先駆者のひとりである小川紳介監督に師事し、自身はドキュメンタリーやピンク映画などで経験を積み、フィリピンに移住する。
現地では、撮影技師の仕事のほか、NPO法人クリエーティブ・イメージ・ファウンデーションを設立し、2001年には自費で学校を設立、マニラの貧しい子供たちに教育と表現の場を提供している。
本作は瓜生氏と、その弟子であるビクター・タガロ氏が監督を務め、過酷な不法労働に勤しむ子どもを映し出していが、当の子どもたちには、それらが違法であり、救われるべき事象だという自覚すらないのかもしれない。生き延びていくには、必要なことだからだ。
子どもたちに密着して、そのエピソードを軸にストーリーが展開していくが、「これは悪いことだ!」などといった、大上段から批判するようなスタンスは取っていない。
ただひたすらに、子どもたちに寄り添い、淡々と現実に映し出している。前述したように、ナレーションで、彼らの置かれた状況を説明されることもないため、フィリピンにおける少年少女に対する不法労働に実態に関する情報を、ある程度、持ち合わせていないと、単なる“可哀そうな子供たち”の映像集にしか見えないだろう。
しかし、フィリピンに巣食う違法労働を、少しでも問題視しているならば、ここにある現実に慄然とするに違いない。同作は、あえて同情の押し付けも、不条理への怒りを誘うようなこともない、純粋なドキュメンタリーだ。映像が指し示す意味を、観客に委ねているという点で、忘れ難い余韻を残す作品だ。
(文・寺島武志)