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「今回は役者の表情を撮りたい」
撮影監督・四宮秀俊との3度目のタッグ

映画監督・俳優の二ノ宮隆太郎
撮影武馬怜子

取り立てて大きな事件が起こるわけでもない。また、血沸き肉躍る展開が用意されているわけでもない。それなのに、観ていてなぜだかドキドキする。未知のスリルを創出するのは、主人公・末永を演じる光石研の“魅力の人間”ならぬ、“人間の魅力”に他ならない。

光石の芝居を的確に映し撮るカメラワークにも注目。撮影監督は『きみの鳥はうたえる』(2018)、『ドライブ・マイ・カー』(2021)を手がけた四宮秀俊だ。

「四宮さんと組むのは『枝葉のこと』(2017)『お嬢ちゃん』(2019)に続いて、今回が3度目です。今までの2本はワンシーン・ワンカットで撮影をしていましたが、この映画に関しては、カットを細かく割って、切り返しで役者の表情を捉えることにしました。四宮さんには『今回は役者の表情を撮りたい』という意志を早い段階で伝えていましたね」

本作の撮影には顕著な特徴がある。人物の肩越しから映すカットを、映画用語で“肩なめショット”と呼ぶが、本作ではそうしたショットはほとんど見られない。

「会話シーンをカットバックで撮るにしても、それぞれの表情を“肩なめ”ではなく、単独で映すことを意識しました。光石さん演じる末永は、身近な他者と改めてコミュニケーションを構築しようとするのですが、言葉が自己循環していく。周平の生活の中で、周平と携わって影響を与え合う関係を単独ショットの切り返しで表現したく思いました」

本作は照明効果もユニーク。随所で柔らかい光が壁や天井に反映し、幻想的な雰囲気をさりげなく形作っている。

「『逃げきれた夢』というタイトルに付された『夢』には、眠っている時にみる夢と、人生の目標という意味での夢という2つのニュアンスが込められています」

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