“令和の怪物”も人の子だった
佐々木朗希がベンチ裏で見せた涙
WBC準決勝は日本にとって、2大会連続で敗退を喫する「鬼門」でもある。対戦相手はほぼメジャーリーガーで固めたメキシコだ。
先発マウンドに立ったのは佐々木朗希。しかし4回、ブルワーズの主砲ウリアスに先制3ランを浴びてしまう。自信を持っていた速球を完璧に捕らえられた一発に、思わずヒザを折る佐々木。この回で降板した佐々木はグラブを投げつけ、ベンチ裏で悔し泣きする姿をカメラは追っている。
甲子園に出られなかったこと以外は、順風満帆な野球人生を送ってきた彼にとって、おそらくは初めて味わう屈辱だったのではないのだろうか。“令和の怪物”も人の子であったことを示すこのシーンは、本作のハイライトといってもいいだろう。
その後、7回に吉田の3ランが飛び出した際、帽子を叩きつけて喜ぶ佐々木。山本由伸(オリックス)らのリリーフ陣が再び2点勝ち越しを許すが、山川穂高(西武)の犠飛で1点差に詰め寄る。
最終回、先頭の大谷は2塁打を放ち、自軍ベンチに向かって吠える。それが侍打線に火をつける。続く吉田が四球を選び、一塁に進む際、大会を通じて不振にあえぎ続け、5番に打順を下げていた村上に向かって、“お前が決めろ!”とばかりに指差す。
そしてこの日、3三振を喫していた村上は、吉田のジェスチャーによって“魔法”にかかる。センターオーバーの二塁打を放ち、決勝進出を決めるサヨナラ打だ。
苦しみながらも雌伏の時を経て、起用し続けた指揮官の期待に応えてみせ、同時に三冠王の意地を見せた瞬間だった。ベンチの全員が我が事のように喜び、村上に抱き着く姿にこのチームの本質を見た思いだ。