「ストーカーという存在に興味をもった」
菜穂子というキャラクターについて
――――前作で女子会を描き、本作でもそれが創作のベースの一つになっていると伺いました。夏都監督にとって女子会を描く意義とはどのようなものでしょうか?
「私が女子会的なものに惹かれるようになったのは、フランス映画作家、ジャック・ロジエの監督作『オルエットの方へ』(1971年)を観て、衝撃を受けたことがきっかけなんです。3人の女性がヴァカンスを過ごす様子を描いた作品なのですが、ドラマチックな展開があるわけでもないのに、女性たちが活き活きとしている姿を見ているだけで、最後まで楽しめる。あとは、女子会を描くことで世相を反映したいという思いもありました」
―――――女子会を描くことで世相を描く…。
「そうですね。カフェなどに女の子が集まって、男性の悪口を言い合ったり、マッチングアプリの話をしているのを聞いていると、世の中で流行っていることとか、彼女たちの価値観がわかってきたりする。若い世代の女性のリアルを映画に反映させたいと思ったんです」
―――――希薄な人間関係というテーマと繋がると思うのですが、個人的には、主人公の響子と同じくらい、岡崎紗絵さん演じる菜穂子の存在が重要だと思いました。響子と杏奈はバックボーンがセリフで描かれるのに対して、菜穂子は謎めいたキャラクターであり、2人とは異なる描かれ方がされていると思いました。
「実は一番初めのプロットでは最年少の杏奈が登場せず、響子と菜穂子の物語だったのです。菜穂子が響子をストーカーする展開に女子会的なものが絡むというものでした。その後、3姉妹という設定に変えてからも、菜穂子が響子をひたすらストーカーするという設定は削らずに残しました。
プロット執筆当時、たまたま今村夏子さんの小説『むらさきスカートの女』を読んでいたこともあり、ストーカーという存在とその心理に興味があったのです。菜穂子に関しては、姉のことを知りたいという思いが強すぎるあまり、響子と関わった男性と寝ることで、間接的に彼女のことを知ろうとする。
さらに言うと、響子のことを知ることで自分自身を知る、他人の肉体を通じて、自分自身を手繰り寄せるという側面があると思います。自己を回復させたくてストーカー行為に及ぶ、すごく痛々しいキャラクターを描きたいという思いがありました」
―――――自分が一体何者なのか。菜穂子はそれを知るために響子にアプローチしていると。
「そうですね。菜穂子にとって響子は同じ父親を持つ存在ですから。一方、2人にとって父親は彼女たちを分断させた存在でもある。劇中では、菜穂子が響子に『お父さんはどうされたんですか?』と聞くシーンがありますが、壮絶な想いで聞いたと思うんですよね。岡崎紗絵さんには、そういう細かい部分もすくい取っていただきながら演じてもらえたと思っています」