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「目には見えない世界の存在を尊重したい」
人間社会を俯瞰する視点について

写真:武馬怜子
写真武馬怜子

――――本作では、女子会的なものを通して身近でアクチュアルな問題を描きつつ、人間社会を俯瞰するような超越的な視点も感じられます。先ほどのお話に戻るのですが、夏都監督のスペシャルなところは、「今回はこっちをやって、これ撮ったら次はこれをやろう」というスタンスではなく、一本の映画でどっちも描いてしまうところだと思いました。

「それは私が普段、今仰った2つの要素のどちらも大事にしている、あるいは、どっちも抱えて生きているからかもしれません。

私、熊本の山奥にある古い家に住んでいまして、そこは私の曾祖父の代からあるのですが、暮らしていて『先祖が住み着いているんだな~』という感覚になることは日常茶飯事。『今、絶対おじいちゃんの霊が通ったな』とか、誰も吸わないのにタバコの臭いがしたり、先祖の霊と同居している感覚なんですよね。

得体の知れないものではあるのですが、それを私は愛おしく思っていて。亡くなった人とか、見えないものを大事にしたい、という思いがすごく強いのです。ご質問の答えから少しズレているかもしれませんが…」

―――いえ、『緑のざわめき』の世界観を理解する上で重要なお話だと思います。

「目には見えない世界の存在を、信用したいと言いますか。“寄り添いたい“というのは烏滸がましいので、尊重したい、愛したい、という気持ちが強いのです。そうした感覚が映画に出ているのかもしれないですね。自分の生活と共に、現実から切り離された世界が身近に存在しているから」

―――――それが夏都監督のリアルなんですね。日常のことを考えるときに、常に超越的な、あるいは霊的な視点があるから、それを捨象してしまうと…。

「バランスが取れなくなってしまうんです。両方の世界を行き来することで、バランスを保てるといいますか、それが私にとってのマトモなんです。それは自分の中心に間違いなくあって、これからも大事にしたいことです」

―――――最後に、監督ご本人についても伺いたいと思います。映画は子どもの頃からお好きだったんですか?

「中学生の頃は横浜に住んでいて、毎週末は必ずと言っていいほど映画を見ていたんですよ。その時はアカデミー賞受賞作品や、ハリウッド映画しか観ていなかったのですが、生活において映画が占める割合は結構大きかったと思います」

――――元々、映画を監督したいという気持ちがあったのでしょうか?

「昔から演技に興味があって、学校の演劇の行事も、やりがいをもって取り組んでいました。一方で、小さい頃から作曲を習っていまして、大学では音楽を学びました。子供の頃から海外で活動したいという目標がありまして、そんな中、女優や映画監督、プロデューサーとして多面的にご活躍されている杉野希妃さんの活動などに刺激を受け、役者や監督という固定した役割に縛られずに活動したいと思うようになりました」

――――映画監督になるための準備として、役者をおやりになっていたのではなくて、横並びにとらえていらっしゃるのですね。

「そうですね。でも、なんだかんだ映画を監督する上で、音楽を学んだ経験も役に立っていますし、役者としての経験も役に立っている。全部が実を結んでいるなと思っています」

―――――最後に、これから映画をご覧になる方に、メッセージをお願いします。

「多様な要素が詰まった作品ですが、女性が連帯していく映画でもあります。これからの時代を生きる女性たちには、性差による障壁のない世の中を生きてほしいという気持ちが強く、三姉妹が一つになっていく姿を見ることで、勇気を得るきっかけになる。そんな風に観ていただけたらいいなと思っています」

(取材・文:山田剛志)

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