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「心も体も溺れました」谷崎潤一郎の名作が現代に蘇る。映画『卍』井土紀州監督、 新藤まなみ、小原徳子、インタビュー

text by 山田剛志

文豪・谷崎潤一郎の名作小説を基に、女性同士の性愛と絡み合う四角関係を描く映画『卍』が9月9日(土)から公開される。今回はメガホンをとった井土紀州監督、ダブル主演を務めた、光子役の新藤まなみさん、園子役の小原徳子さんのインタビューをお届け。演出や役づくり、現場でのエピソードをたっぷりと伺った。(取材・文:山田剛志)

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「男性原理に基づいた映画にならないようにしたかった」
女性脚本家と作りあげたシナリオについて

C28 井土紀州監督 写真:宮城夏子
井土紀州監督 写真宮城夏子

―――まずは、井土監督にお伺いしたいのですが、谷崎潤一郎原作の『卍』は、過去に何度も映画化されている作品です。現代を舞台にして改めて映画化しようと思われたきっかけから教えてください。

井土紀州(以下、井土)「その世界観がもはやスキャンダラスではなくなった現代に、谷崎を読み直す、そんな試みをしてみたかったんです。女性と女性が恋に落ちたり、肉体関係を持つことは、もはやタブーでもスキャンダラスでもないですよね。

むしろ逆に既婚者の不倫みたいなことへの社会の批判はものすごく強くなっている。そんな現代に『卍』をやったらどうなるだろうな、と。あとは、やっぱり『卍』って女性二人のビジュアルで、理屈抜きで惹かれるものがある。そうしたこともあり、いつかやれたらいいなと思っていました」

―――かねてから『卍』を映画化したいという思いを持っておられたのですね。

井土「元々考えていた企画だったんです。2022年にレジェンドピクチャーズ製作のいまおかしんじ監督作品『遠くへ,もっと遠くへ』に脚本で参加したんですけど、その直後に、レジェンドさんから、「何か企画ない?」と聞かれまして。いくつか提出したのですが、最も良い反応をいただけたのが『卍』でした」

―――企画書の段階で、すでに現代を舞台にした形になっていたのでしょうか?

井土「そうですね、はい」

―――原作はおよそ95年前に書かれたものですが、現代人の心に真っすぐ届くクイアな欲望がしっかり描かれていて、今の話としても読むことができます。本作の試みは、谷崎の先進性を浮き彫りにするようなところがあると思いました。

井土「その通りだと思います。谷崎は普遍的ですよね。それはね、もっともダイレクトな人間の欲望を描いているからだと思います」

―――今回、脚本にクレジットされている小谷香織さんですが、井土監督とは元々お知り合いだったのでしょうか?

井土「ええ。小谷さんは、『新人シナリオコンクール』の受賞経験もある方。一時期、シナリオの勉強会を少人数でやっていたのですが、そこの参加メンバーでもあります。小谷さんとは以前から一緒に企画を考えていたこともあり、『卍』の企画が通った後、レジェンドさんに紹介して、彼女にお願いすることになりました」

―――井土監督がコンセプトを示し、それを小谷さんが受けて書く、という形でシナリオは進められたのでしょうか?

井土「そうですね。近年は脚本家として女性監督や女性プロデューサーと仕事をさせていただく機会も多いのですが、男性目線が強く出てしまいそうな時にストップをかけてくれたり、新たな切り口を提示される経験がとても刺激的でした。

今回、小谷さんは『女性が観て嫌な気分になる映画にはしたくないです』ときっぱり言ってくれました。そこで、僕も男性原理に基づいた映画にならないように気をつけようと。シナリオは彼女の意見を信頼、尊重して作っていきました」

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