「この脚本をしっかり体現したい」
撮影までの準備期間について
―――ダブル主演を務められたお2人が、脚本を最初に読まれた時の印象が気になります。新藤さんはいかがでしたでしょうか?
新藤まなみ(以下、新藤)「出演が決まった時、過去に映画化された『卍』を観たのですが、それを踏まえて、本作の脚本を読むと、原作が90年以上前の作品であるということを忘れて楽しめるようになっていて、尚且つオリジナリティもあり、今、私たちがやることに意味のあるものになっているなと思いました」
―――小原さんはいかがでしたでしょうか。
小原徳子(以下、小原)「原作が発表された時代に比べて、今は多様化の時代。女性同士の恋愛関係も決して禁断というものではなくなっていると思うんですよね。だからこそ、同じ女性である光子を愛してしまった園子の気持ちを、より深いところまで描けるのではないかと思いました。
脚本を読んだ時、人間同士の恋愛劇がしっかり描かれているのが印象的で、すごくグッときました。あとは、今の時代、仕事を生きがいにする女性もすごく多いですよね。そうした方にも共感してもらえるように、この脚本をしっかり体現したい。そんな気持ちにもなりました」
―――撮影に入るまでどのような準備をなさったのかについても伺えればと思います。新藤さん、小原さん、お2人ともシーンによって表情や声色がダイナミックに変化する様子が印象的でした。本読みは入念になさったのでしょうか?
新藤「(一緒には)してないですよね?」
小原「えっと、私は、事前に監督と…」
井土「流れを説明しますね。本作の準備期間はとても短かったのですが、一度本読みの日を設けたはいいものの、運悪く僕がコロナに罹患してしまい、オンラインで実施することになったのです。
目の前に演者がいない分、セリフを発する音を聞き取ることに集中して臨んだのですが、園子に関しては、最初から最後まで彼女の視点で進んでいく物語なので、別の場を設けてしっかりとお互いの解釈を擦り合わせないといけないなと。そうしたこともあり、小原さんとはファーストシーンからみっちりとディスカッションをしました」
―――小原さんも井土監督とのディスカッションを通じて、改めて役を発見するようなところがあったのでしょうか?
小原「はい。そこで大分、役を掴むことができました。最初は、光子に翻弄される部分を強く作っていたのですが、園子は、すでにしっかりと自分の足で立っている女性。それが、ふとした拍子で光子との関係に溺れてしまう…。様々な面をもつキャラクターですが、井土監督とのディスカッションでは、園子の強い部分、軸の部分を作り上げていきました」
井土「そうでしたね。本読みの段階では、もっと優しくて、やわらかい園子像だったんです。それに対して、僕は『もっとドライでお願いします』と。園子はもっと強い人ですよ、彼女は経営者ですよ、というところから一緒に役を掘り下げていきました。本番までにアジャストしていただけるか内心ドキドキだったのですが、現場では完璧に役を掴んでくださっていて、安心しました。一方、光子演じる新藤さんに対しては『自由奔放にやってください』と」
―――アプローチが違ったのですね。
井土「そうなんですよ」
新藤「お2人がイン前にディスカッションをされていたこと、今知りました(笑)」
―――新藤さんはクランクイン前、どのようなお気持ちで過ごされていましたか?
新藤「私、小原さんに初めてお目にかかった時、『わあ、園子だ…』と感激したんです。先ほど監督がおっしゃった、強さや優しさを兼ね備えた園子像は小原さんそのもので。対して、私は私で天真爛漫な部分や自由人であるところなど、光子に似ている部分があってですね、すんなりと役に入っていけたと思っています」
井土「僕がお2人に気をつけていただいたのは、お芝居が甘くメロウになりすぎないようにということでした。やっぱり演じているとお互いに、ウェットな方にホロっといきがちだし、それが良い時もあるんですけどね。
『泣かないでくださいね』とか、『ここはもっとドライでお願いします』といったことはお願いしました。それ以外のことは、お二人ともバッチリで、安心して演技を見守ることができましたね」