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「感情のコントロールが難しかった」
クライマックスの演出について

c101 写真:宮城夏子
写真宮城夏子

―――クライマックスについてもお伺いしたいと思います。谷崎の原作とは異なる終盤の展開が見ものですが、どのような思いで原作のアレンジを試みられたのでしょうか?

井土「原作では、孝太郎も園子も光子を崇拝するみたいなモードに入っていきますよね。他のキャラクターはどっか行っちゃって。あとは原作では睡眠薬が重要なモチーフとして出てくるのですが、その辺が単純に今っぽくないなと。原作に忠実なプロットもあったんですけど、イマイチ跳ねないよねっていうのがあって。

原作では、3人が関係に疲れきって、結局、睡眠薬を大量に飲んで光子と孝太郎だけが死に、園子だけが生き残る。それはそれで、谷崎の文学だなと思うんですけれども。そこはもうちょっと今風にしてみようかなと思ったんです」

―――終盤のとあるシーンでは、園子は光子に投げかける重要なセリフを、背中を向けたまま発声しますよね。それを聞いて光子の方が振り返って園子に近づくという演出がなされています。2人のキャラクターと内面の葛藤が伝わり、とても感動したのですが、この演出を受けた時、お2人はどう思われたのでしょうか?

小原「私が園子だったら、多分振り返って、光子を追いかけてしまう。でも、園子は今まで生きてきたプライドがあって、ギリギリのラインで踏み止まる。演出を受けて、『園子はこういう人だな』ってことをすごく感じましたね。

あそこで園子がもっと崩れていたら、もしかすると違う展開になっていたかもしれないけど、そこまで崩れきれないからこそ、こういう結末になったんだなって」

新藤「このシーンは、お互いが人生で積み重ねてきたものをぶつけるシーンで、感情のコントロールが難しかったです。距離をとって言葉を投げかける園子に『ああ、やっぱり素敵だな、かっこいいな』と思うと同時に優しさも感じて。背中で受けるものがあったので、それに応えたいっていう気持ちでしたね」

―――インタビューの最後に、お一人ずつ、これから本作を観る観客の方に、メッセージを いただければ幸いです。

新藤「男性の方も女性の方も“一緒に溺れていける”作品になっていると思います。世界観にどっぷり浸れると思いますので、ぜひ観に来ていただければと思います」

小原「過去に映画化された『卍』に比べて、より身近にものになっているんじゃないかと思います。おそらく今後もまたきっと時代に合わせて『卍』は映像化されていくと思うんですけど、今回の井土監督による『卍』が、観る方の生活にグッと入り込む、一つの節目になる作品になっているんじゃないかな。本作を鑑賞して映画館を出た後、皆さんの生きる世界がちょっとでも変わるきっかけになってくれたら嬉しいなと思いますね」

井土「新藤まなみと小原徳子の『卍』を堪能していただきたい。私からはそれだけです」

(取材・文:山田剛志)

【作品情報】
監督:井土紀州
脚本:小谷香織
企画:利倉亮 郷龍二 プロデューサー:江尻健司 北内健 アシスタントプロデューサー:竹内宏子
撮影:田宮健彦 照明:金城和樹 録⾳:山口勉 美術:中谷暢宏 編集:桐畑 寛
助監督:森山茂雄 制作担当:山地曻 山田剛史
メイク:五十嵐千聖 スタイリスト:大平みゆき スチール:阿部拓朗
⾳楽:宇波拓 整音・⾳響効果:藤本淳 キャスティング協力:関根浩⼀ 北野裕子
営業統括:堤亜希彦 制作:レジェンド・ピクチャーズ 配給協力:マグネタイズ
2023年/⽇本/104分/カラー/ステレオ/R-15作品 ©2023「卍」製作委員会
公式サイト

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