「アイナ・ジ・エンドの才能に感銘を受けた」映画『キリエのうた』岩井俊二監督、単独インタビュー。最新作とデビュー作を語る
日本映画を代表する岩井俊二監督の満を持しての大作である音楽映画『キリエのうた』が公開される。元BiSHのメンバーであるシンガーソングライター/アイナ・ジ・エンドが主演を務め、大塚愛、安藤裕子など豪華ミュージシャン勢が脇を固める。自らもミュージシャンでもある岩井俊二氏に、今作における想いを伺った。(取材・文:ZAKKY)
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【プロフィール】
1993年に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』にて、テレビ放送にも関わらず、日本映画監督協会新人賞を受賞。その後、『Love Letter』(1995)、『スワロウテイル』(1996)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001)などの名作を制作し続けている。
「なんて才能がある人なんだろうと感銘を受けた」
主演アイナ・ジ・エンドとの出会い
―――この映画の着想の原点をお聞かせいただけますでしょうか。
「まず、映画『ラストレター』(2020)の劇中に、ある本が出てくるんですけど、その本の中身っていうのが、登場人物である乙坂鏡史郎が送る大学4年間を描いたものなんです。その中に登場するとある学生映画のエピソードを、膨らませてひとつの映画にしたというところですね」
―――劇中劇を独立した映画にしたということでしょうか。
「ええ。田舎から出てきたミュージシャンの女の子(キリエ)と、それをマネージメントする女性・イッコ(本名・真緒里/広瀬すず)が織りなす、珍道中が、面白いかなと」
―――『ラストレター』に登場する「本」の中でも、すでに内容は決まっていたのでしょうか?
「いや、その中では3ページぐらいの内容はありました。そこから書き足して、だんだん形になってきていき、原型を成し始めたといった感じですかね」
―――主演のアイナ・ジ・エンドさんは、どのようなきっかけで起用されたのでしょうか?
「ええと、ROTH BART BARON (ロットバルトバロン)というバンドのライブに誘われたんです。でも、忙しくて行けなかったので、執筆しながらオンラインライブで拝見しました。
そこにアイナさんがゲスト出演されていたのですが、とりわけ1曲、ロットさんたちと一緒にやったコラボ曲がすごく印象に残っていまして。
それ以前もアイナさんの存在はもちろん知っていましたが、パフォーマンスをちゃんと観たのは、その時がほぼ初めて。思わず筆が止まりました。
あ、BiSHではこういう子が歌っていたんだと。この人と何かやってみたいなという直感が働きました。そこから色々と調べ始めましたね。ソロで、もうすでにアルバムを出していることも知り、聴いてみたところ、なんて才能がある人なんだろうと改めて感銘を受けました」
―――彼女の歌声は唯一無二ですよね。
「そこからどんどん一方的にファンになり、彼女から出演の快諾を得て、この映画は本格的にスタートしました」
―――アイナさん作詞・作曲の劇中で使われている楽曲は、この映画のために書き下ろされたものなのでしょうか?
「そうですね。劇中で使われているのは4~6曲程なのですが、もっと何曲も書いてくれて感嘆いたしましたね」
―――アイナさんが楽曲を制作する前にディスカッションはありましたか?
「ディスカッションと言うか、例えば夜中にスマホ越しにギターの弾き語りで、聴かせてくれたりするんですよ。それが、また良くて。アイナさんは、この映画のためにアコースティックギターを覚えてくれたんですけど、非常に難易度の高いことにチャレンジしてくれました」
―――うわあ! 貴重な制作過程ですね!
「それで、出来上がった曲を『この曲はこのシーンに』『この曲はあのシーンに』と楽しんで作業しましたよ。曲自体のディスカッションは、普段からどなたかとやっていると思うので、僕が意識したのは、歌詞の届きやすさなどですかね。まあ、自分が思いつく限りの意見を言ったりはしていました」