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「高良さんは春の心理を直観的に理解してくださった」
何かに縛られ続ける3人の男たち

©2023「罪と悪」製作委員会
©2023罪と悪製作委員会

―――プレス資料では、『主演は高良健吾さん以外ありえない』と語られていました。〈春〉は高良さんをあてがきしたキャラクターだったのでしょうか?

「一概には言えないですね。僕が見ている高良健吾と、彼が演じる〈春〉というキャラクターの間には2ブロックほど扉があるんです。自分が思う〈春〉のイメージを高良さんに説明して、それを彼なりのやり方で咀嚼してもらった結果、役が作り上げられていった、と言ったらいいでしょうか。当て書きっていう言い方より良い表現があればいいのですが」

―――なるほど。齊藤監督は、高良さんと春に、似ている部分があると思われたのでしょうか?

「似ている部分というより、高良さんは春の心理を直観的に理解してくださったんです。脚本を書く前、『地元に残った人の強みってあるよね』っていう話を2人でしました。僕は18歳、高良さんは10代後半で地元を離れて、東京で活動していますけど、その話を聞いて確かにそうだなって。

地元に残るっていることは、逃げ場を断たれるということでもあって。上京してダメだったらまた戻ることができるけど、地元に残っている人達は、現在も過去も飲み込んで、そこで生きていく! っていう覚悟が強みとしてあるよなって。

こういうマインドって簡単に説明するのがとても難しくて。生まれてからずっと都会に住んでいる人にはピンとこないと思うし。その点も含めて、春を演じるのは高良さんしかいないなと思いましたね。実は初め、主人公は〈晃〉で考えていて、彼が地元に帰ってくる話だったんです。

議論を重ねた結果、地元に残った強い男である〈春〉が主人公の話になりました」

―――作中では、『この街を出たい』というセリフがよく出てきましたが、田舎の町を舞台に設定した理由を教えてください。

「やっぱり昔から、田舎の人は何かやらかしたら都会に逃げてきたわけじゃないですか。でも、実際逃げられなくない? っていう。登場人物が縛りつけているのは、あくまで心の問題なんです。肉体的には遠くに逃げることができても、心の中では過去に犯した事件がずっと消えずに存在している。たとえば、晃は街を出たけど、心はあの街に囚われたままなんですよね」

―――晃と朔は親の職業を継ぎ、春もグレーな仕事を行ってはいるけれどあることで刑事の犬として、結局3人は大人になっても何かに縛られ続けます。

「警察って田舎だと、顔見知りも多いので、罪を犯した人間がいたとして『お前は俺の息子・晃の同級生だったよな』って、裏で手を回すみたいな話は一昔前だったらザラにある話で。流石に今の時代は知らないですけど。でも、警察官を親に持つ晃も、自由を欠いているという点ではある意味地獄じゃないですか。また、朔という人物は、人と深い関わりを持つことはないけど、土地に縛られるイメージにしたくて、農業を営んでいるという設定にしました。晃は警察という正義に縛られて、朔は土地に縛られて、春は犯罪に縛られる…っていう形にしたかったんです。3人の職業はそうしたイメージに対応しています」

―――画面設計に関しても伺いたいことがあります。春のオフィス、朔の実家の縁側、佐藤(椎名桔平)との喫茶店のシーンでは、背景の大きな窓から綺麗な光が差しこみます。一方で、春と佐藤が話す海辺のレストランのシーンでは、曇天が印象的でした。窓の外から差し込む光や天候表現に関して相当こだわられたのではないでしょうか?

「そこは大分こだわって作りました。『今日は晴れているから喫茶店のシーンを撮ろう』、『今日は曇天だからは海のレストランのシーンを撮ろう』と、光や天候に応じて撮る順番を入れ替えました。また、重要なシーンでは、背景が壁で覆われるのがどうしても嫌だったので、窓がある物件を選びました」

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