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「勝つでも負けるでもなく遊ぶ」映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』古厩智之監督、単独インタビュー

text by 山田剛志

どこにでもいる10代男子がひょんなきっかけから【e スポーツ】全国大会に挑むことになる青春映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』。監督を務めた古厩智之さんのインタビューをお届け。奥平大兼、鈴鹿央士、小倉史也ら3人の若手俳優について、細部の演出に込めた思いなど、お話を伺った。(取材・文:山田剛志)

「人生、勝ち負けだけじゃない」
試合シーンの撮影方法について

写真:武馬怜子
写真武馬怜子

―――古厩監督は、『ロボコン』(2003)ではロボットコンテスト、『のぼる小寺さん』(2020)ではボルダリング、そして本作ではeスポーツと、従来の映画があまり取り上げてこなかったテーマに果敢に挑戦されています。題材選びの上で考えていることがあれば教えてください。

「本当のところ、例えばボクシング映画を撮りたい気持ちもあるんですよ。ただ、勝ち負けがハッキリした王道のスポーツものをやりたいのだけれど、それと同時に『勝ち負けに執着して、熱くなるだけでいいのかな』みたいなことを凄く考えるんですよね。

それもあってニッチな題材に行くのかもしれないですね。言ってしまえば、ロボコンは文化系だし、ボルダリングも自分で登るだけ。今回もたかがゲームです。凄く熱いものをやりたいという気持ちもありつつ、熱けりゃ熱いで不安になる。だから今回のような題材は自分と相性が良いと思うんですよ」

―――勝ち負けに収斂しないものを描きたいということでしょうか?

「そうですね。勝ち負けにフォーカスした映画って、勝敗がついた瞬間、『勝ったー』って盛り上がるじゃないですか。でも人生それだけじゃないよなっていつも思うし、それだけで終わる映画にはしたくないなと思っています。それによって歯切れの悪さは伴うかもしれませんが」

―――今回のテーマはeスポーツであるということで、被写体の動きがテーブル周りに限られるので、一見映画として不利なシチュエーションのように思えますが、本作ではそれを逆手に取って、役者の表情と豊かな声のニュアンスを際立たせています。今回、どのような意識で演出に臨まれましたか?

「おっしゃる通り、最初は登場人物が座っているだけで大丈夫かなと思いました。撮影の段階ではゲーム画面が出来ておらず、試合シーンのお芝居を撮るためには工夫が必要でした。

例えば奥平大兼君がプレイしている顔を撮る際は、小倉史也君と鈴鹿央士君の2人に少し離れた別部屋にいてもらって、電波で繋げて同時にお芝居してもらったんです。もちろんこの時、小倉君と鈴鹿君の芝居は画にはなりません。

でも、3人のやり取りと間は、奥平君の表情を撮るにあたって絶対に必要になる。ちなみに、奥平君が見ているパソコン画面には簡単な画が映っているだけで、僕がカメラの横で『さ、ボールが出たぞ。今、取った』とか喋って、それに反応する形でお芝居をしてもらいました」

―――そんな舞台裏があったのですね。

「現場では『撮っても撮っても終わらねえな』と思って。というのも、同じシーンを奥平君、鈴鹿君、小倉君と3回やるから、時間も3倍かかる。彼らも段々覚えてきて、途中から『監督うるさいからちょっと黙って』って言われて。俺喋りたいのに(笑)。

ともあれ、3人の間でゲームの内容が共有されていき、彼らが自発的に掛け合いをし始めた。それもあって、僕が事前に想定していた計画とは異なり、彼らが進めたものに従ってゲームを作る、といった流れになっていきました」

―――試合シーンの3人の掛け合いはシナリオを叩き台にして、ジャズのセッションのように行われ、それに基づいてゲーム画面が作られていったのですね。3人のお芝居には独特のグルーブ感があり、ゲーム画面との連動ぶりが素晴らしいと思って観ていたので、撮影方法を伺って腑に落ちました。

「そうそう。だって『そこで、あーとか言うなよ』って伝えても、そういう流れで掛け合いが進行しているので、じゃあしょうがないかって」

―――画面を3分割して、3人の表情を同時に映すという演出も多用はされてないですよね。限られたシーンでお使いになっているという印象です。

「一度、編集で多用してみたんですよ。そしたら、全然胸に来なくて。海外ドラマ『24』のような分割画面ってよく見るけど、やっぱり人間、情報処理には限界があるので、一箇所をじっと見ることができないから散漫になってしまうんですよね。一度多用してみて『ヤバい』と思い、戻しました」

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