「僕の内面を反映してる」
『メランコリック』の衝撃から6年経って考えたこと

田中征爾
写真:武馬怜子

―――一平のキャラクターは、田中監督の前作『メランコリック』(2019)で皆川暢二さんが演じられた主人公と似ているところがありますよね。どちらも眼鏡をかけていて、猫背で、周りの人に恵まれているにもかかわらず、どこか暗いところばかり見てしまう。ある種の盲目性があるという点で、通じる部分があると思いました。

「それはよく言われますね。『メランコリック』と『死に損なった男』の主人公の、最も大きな共通点は、どっちも僕の内面を反映してるってところですね。くよくよしてて、ちょっと神経質で、どうでもいいことに悩んだりして。自分が幸せになる権利があるとそんなに思ってないみたいな…一平もそういう感じじゃないですか(笑)」

―――凄く内省的なキャラクターですよね。この流れで田中監督ご自身のことについてお話を伺いたいと思うのですが、初監督作品である前作『メランコリック』から2作目の公開まで6年がかかりました。その間、どのようなことを考えて、日々を過ごしていらっしゃいましたか?

「色々ありますが、1番はやっぱり、若くて優れた映画作家の方々が次々とデビューしていく中で、焦りを憶えることが多かった、ということです。別に僕なんかが映画を作らなくても、誰かが面白い作品をいっぱい作ってくれるし…何のために映画作ろっかな? みたいな。焦りと絶望の期間はありましたね。実は劇中でこれに類するセリフを一平に言わせてるんです。そこは脚本を後から書き換えた部分ですね」

―――映画作家として次の一手はどうしようかと、苦悩する時間が長かったのですね。

「そうですね。とはいえ、どんなに戦略を練っても思ったとおりには事が運ばないっていうことも、ここ3~4年で身に沁みて理解しました」

―――自分がやれることをやるしかないと。

「うん、そうですね。戦略的に考えて、その通りにやれる人もいるのかもしれないですけど、僕はまだそのステージになかったなと。こうやってオリジナル作品をやらせてもらえるっていうことだけでも十分ありがたいわけで。まずはこの映画をなんとか成功させて、次のことはその後考えればいいと思っています」

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