「本当にこれハッピーエンドなのか?」
ラストシーンに込めた意図

死に損なった男
©2024 映画「死に損なった男」製作委員会

―――正名僕蔵さん演じる森口のキャラクターもユニークでした。一平とは擬似的な親子関係を築いているようにも見えますが、面白いのは、森口がことあるごとに、“関谷一平”とフルネームで呼ぶことです。

「実は13年前に書いた脚本でも、森口が“関谷一平”とフルネーム呼びするという設定なんです。キャラクター名自体は同じなので。これは僕だけかもしれないし、もしかしたら共感してくださる方も中にはいるかもしれないですけど、学生時代、友人関係が構築されはじめる、お互いの距離感が微妙な時期に、フルネームで呼んでくる人が今までの人生で何人かいたんですよね」

―――苗字の呼び捨てだと距離が近すぎると。

「そうそう。苗字の呼び捨てだと近すぎるし、下の名前は言わずもがなですよね。でも“君”とか“さん”を付けるのも気持ち悪い。だからなのかフルネームで呼んでくる。あの距離感は面白いなって思って。それで今回、森口に“関谷一平”と連呼させてみたわけです。フルネームで呼ぶことで少し変な距離感が生じるかなと思ったんですよね」

―――ネタバレに配慮しつつ、映画の終わらせ方についても伺えればと思います。幽霊である森口は最後まで消えることなく一平の前に現れ続けます。続編を期待してしまう、開かれた終わり方になっています。これはハッピーエンドと解釈してもいいのでしょうか?

「実はこれ、サントラ盤のコメントにも書いてるんですけど、生きている人間が幽霊と仲良く共存していくということは、完全に幸福なこととも言えないよね、とも思っていて。最後2人が笑い合って終わるっていうイメージは最初からあったんですけど、ある種の不穏さもちゃんと残したいなと思っていました。最後の中華屋さんで、近くの席で関谷を見ているおじさんに怪訝な顔をしてもらったのもそういう意図なんです。関谷のような人が身近にいたら、あなたは友達になれますか? っていうことですよね」

―――お話を伺って、もう一度ラストシーンを見直したくなりました。

「僕の中では、『メランコリック』も同じような終わらせ方をしたつもりなんです。本当にこれハッピーエンドなのか? みたいな。そこはなんて言うんですかね、僕自身、自分が幸せになることへの疑問が拭えないからかもしれません」

―――本日は作品の理解を深める貴重なお話をありがとうございました。

(取材・文:山田剛志)

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