沢田と横山に込められた裏と表の感情
―――沢田が、綾野剛さん演じる横山と居酒屋へ飲みに行く描写が印象的でした。横山が沢田に『何ができる?』と聞いた後、彼が小さく『口笛』と答えたシーンでは、笑ってしまいました。このシーンでなぜ『口笛』という答えにしたのか、ぜひお聞きしたいです。荻上監督のアイデアだったのでしょうか?
「そうです。それは脚本の段階から決まっていて、本当に意味のないこと、誰にとっても何もないことを言わせたかったんです」
―――綾野剛さんが演じる役柄は、基本的に意味のないことには一切価値を見出さないキャラクターなのに、そのシーンだけは彼がノっていたんですよね。だからこそ、個人的にあのシーンがお気に入りです。
「嬉しいです。ありがとうございます。実は、あのシーンは綾野さんのアドリブなんです。本読みの時に、彼がボソッとアドリブで『オレ口笛吹けないし』と言ったんですが、それがとても面白かったので『本番でもぜひ言ってください』とお願いしたんです。そして、あのシーンが生まれました」
―――横山は、沢田とは対照的に、自分の夢に対して非常に貪欲で、日の目を見ない人生に苦しんでいるキャラクターでした。沢田とは真逆の人物像として描かれていますが、横山というキャラクターはどのように作られたのでしょうか?
「沢田と横山というキャラクターは、どちらも私自身が持っている部分なんです。純粋に映画を作りたいという気持ちもあれば、この映画で認められたいという欲求も強くあります。その2つの感情を沢田と対の人物として描きたかったんです」
―――沢田と横山は、荻上監督の裏と表を体現されたキャラクターだったんですね。すごく貴重なお話が聞けて嬉しいです。横山に綾野さんをキャスティングした理由も気になります。
「綾野さんは、普段の私の映画にキャスティングされるタイプではないという印象がありました。鉛筆のタッチが少し違うようなイメージがあって。その異物感が面白いかなと思ったんです。実際、綾野さんも『僕が荻上監督の映画にキャスティングされるとは思っていなかった』と言っていて、そこもまた面白いポイントでした」
―――確かに、綾野さんが本作に出演すると知った際、同じようなことを感じました。では、沢田のコンビニの同僚であるミャンマー出身のモー(森崎ウィン)は、自分の思いをしっかり伝えることができるポジティブな性格が印象的でした。彼を日本人ではなくミャンマー人に設定した理由は何かあったのでしょうか?
「渋谷や新宿といった都会のコンビニでは、外国の方が働いていることが多いですよね。そんな中で、ニュースなどで外国人の方が差別されているのを見ると、とても心が痛むんです。私自身も、外国に行った時に、現地の言葉を話せないことで嫌な思いをした経験があるので、その気持ちはよくわかります。
沢田には、そうした人々の痛みをしっかり理解できる人物であってほしいという思いがありました。また、個人的には、日本人では気づけない小さな幸せを、他の国の人々だからこそ気づけるのではないか、と感じていたんです。少し考えすぎたかもしれませんが、そのような背景があって、彼をミャンマー人に設定しました」