清らかな若者を引き裂く「戦争」
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の物語の特徴は導入部にある。主人公である現代の女子高生の百合(福原遥)は、日常的にイライラし、不満な毎日を送っている。
夫を亡くし、シングルマザーとなった百合の母(中嶋朋子)は懸命に働き、娘の大学資金を貯めているが、そんな母の愛情にも百合には鬱陶しく感じているのだ。
進路を巡って口論をした末に、家を飛び出した百合が朝、目を覚ますと1945年、戦時中の日本だった……。
主人公が時空を超える映画といえば、時代を超えて愛される傑作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985〜1990)シリーズや、フジテレビ系ドラマ『信長協奏曲』(2014)などがあるだろう。
しかし、その舞台が戦時中であり、尚且つ、ラブストーリーというのは珍しいかもしれない。
本作は、目が覚めると戦時中の日本で、混乱する百合を偶然助けたのは若い特攻隊員の彰(水上恒司)。彼に軍の指定食堂に連れていかれ、百合はそこの女将(松坂慶子)のお世話になりながら、彰と仲間の特攻隊員と交流していくというストーリー。
彰の誠実さ、優しさに惹かれていく百合だったが、現代からやってきた彼女は戦争で日本が負けることを知っている。
特攻隊員が戦闘機で突撃しても、それが無駄死になることも分かっているのだ。
食堂の女将さんは兵士たちの健康のために美味しい食事を用意するが、その根底にあるのは「お国のため」。
国のために戦う彼らを支えることが自分にできることだと考えている。
特攻隊の任務も女将さんの気持ちも百合には歯がゆい。百合は何度か戦争反対のメッセージを兵士たちに力強く訴えるが、そのシーンがとても印象深い。
なぜなら、百合はこの映画の根底に流れる反戦を叫んでいるからだ。
未来ある若者たちの命を奪い、愛する人や家族を悲しみのどん底に陥れる戦争。
この映画は、百合と彰のピュアなラブストーリーがメインだが、運命的な出会いをした2人の清らかで愛らしい恋愛を戦争が引き裂いていく姿も描いている。
兵士たちの笑顔の裏には特攻隊の指令がいつ下されるかわからない恐怖が垣間見られるのも辛い。