巧みな構成で世界を唸らせた傑作コメディー演出の魅力
『鍵泥棒のメソッド』(2012年)で知られる内田けんじ監督作品。霧島れいかと中村靖日が主演を務める。
本作は、プロの映画監督への登竜門として知られる「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」のスカラシップ作品として発表された作品で、大手の映画会社が製作する作品に比べると予算規模は雲泥の差。しかし、公開するや否や大きな反響を呼び、カンヌ映画祭では批評家週間に出品され、フランス作家協会賞(脚本賞)ほか4部門を受賞するなど、さまざまな栄に浴した。
なぜそこまで大きな注目を集めたのか。それは、本作の構成の見事さにある。本作の注目ポイントは、むしろそこに集中していると言っても良いかもしれない。
本作では「桑田真紀」「宮田武」「神田勇介」「浅井志信」と、登場人物の名を冠した4つの章に分かれており、とある夜の出来事がそれぞれの登場人物の視点から描かれる。つまり鑑賞者は、話が進むにつれて、登場人物のセリフや行動に隠された意味や動機を徐々に知ることになるのだ。
また、コメディであると同時に本格的なサスペンス、あるいはフィルム・ノワールでもある本作には、「ヤクザ」や「犯罪」といった血なまぐさいファクターが随所で散りばめられている。しかし、それにもかかわらず、目を逸らしたくなるような凄惨なシーンはまったくなく、老若男女が安心して観ることができる。さらに、性描写に関しても同様であり、ベッドシーンなども一切なく、大人の映画ではあるものの、暴力描写と性描写で映画が濁るようなことは一切ない。
それは中村靖日が演じた主人公・宮田武の純真なキャラクターによるところが大きいだろう。本作の語り口自体が、主人公の悠然とした佇まいと渾然一体となっており、好ましいことこの上ない。
なお、上記のような内田けんじ演出は、その後『アフタースクール』(2008年)で更なる飛躍を見せる。本作を気に入った方は、ぜひこちらの作品も観てみてほしい。