人間関係不得意・T君
怪獣映画では必ず怪獣との意思疎通ができる人物が登場する。ピュアな少女や、現地の原住民。平成ガメラ三部作でいう草薙浅黄(藤谷文子)や、モスラがいるインファント島の双子がそうだ。
一方、「人間関係不得意のT君」。
『笑いのカイブツ』のT君は基本的には、ほとんど喋らない。さすがに伝わらないだろってほど、シナリオには「……(初めて読まれて)」や「……(認めてくれて、少し嬉しく)」などの無言のセリフが並び、それを演じ分ける岡山天音の凄みがヒシヒシと感じた。
そんなT君だが、劇中で軽妙な会話をしているシーンがいくつかある。
例えば、オカンのミカコ(片岡礼子)との成人式行く行かないの口論、初恋の人ミカコ(松本穂香)との3分の1個がすっぱいガムを食べるところ、宗右衛門町のバーでピンク(菅田将暉)にネタのブラッシュアップの方法について話すシーンなど、心を許した人間との会話では、T君の中の面白い面が滲み出ている。
東京でT君と共に過ごしたWは、T君について「二人でいるときはよく喋るが、三人以上だと途端に無口になる」と言っている。母子家庭で育ったため3人以上の会話に慣れていないそうだ。それゆえ、バイト先や劇場の作家会議、ラジオの会議では「人間関係不得意」の面を発揮しまい、周囲との溝を広げてしまう。
スタッフからの「西寺くんがツチヤくんを可愛がってるのはわかるけどさ」の言葉に、西寺は「可愛がってるとかそんなんじゃなくて」と反論する。西寺のモデルのWは本の中で、「可愛がってる」のではなく「初期衝動や自分の”そもそも”を思い出させてもらってる」と語ってる。
Wも元は「人見知り芸人」で、同じ「人間関係不得意」の仲間だった。それゆえにツチヤの気持ちを理解できて、更には自分が捨ててきたものを彼を見て思い出そうとしているのかもしれない。
それは観客も同じだ。「笑い」ではなくても、不器用なまでに何かに熱中する純粋さは誰しもにあった。『笑いのカイブツ』におけるT君の姿は、その純粋さを思い出させてくれる。