東出昌大のドキュメンタリーであり、最高の”食育”映画
ミュージックビデオ製作を中心に活躍し、ドキュメンタリー監督に転じた映像作家・エリザベス宮地が1年間密着し、400時間もの撮影を経て製作された異色の作品だ。
猟銃を担いで、雪は積もる山中の道なき道を歩き、獲物を狙う。捕獲した獣を自ら担いで運び、毛を剥ぎ、肉をさばいていく。
我々は、肉を食す時、キレイに成形されたものを当然のように調理し、口に入れている。そこに「生」や「死」を意識することなどない。その前段で、生き物が屠殺され、切り刻まれた上で出荷されていることを想像する人などいないだろう。それはジビエ(野生鳥獣肉)でも同じことだ。
東出が「師匠」と呼ぶ登山家・服部文祥の教えを請い「単独忍び猟」という手法で獲物を獲っていく。獲物は新鮮さを保つため、即解体作業に入る。周囲に子どもがいてもお構いなし。その残忍な光景に、泣き出す子どももいる。
しかし、鑑賞者のみならず、作中に登場した子どもたちにとっても、その現実は最高の“食育”ではないかとも感じる。
宮地は当初、東出の友人でもあるラップグループ「MOROHA」のメンバーの半生も重ねて、双方の視点を相互的に重ねるような構成を考えていたという。
しかし、撮影を始めると、狩猟の世界の厳しさを知り、同じタイミングで東出がフリーとなり、山へ移住したことで、東出を追ったドキュメンタリーになったいきさつがある。
MOROHAは、武道館公演の模様などが挿入され、また、そのラップは、東出の人生とオーバーラップされるような歌詞で、作品を彩っている。