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タイトル『WILL』の意味とは?

©2024 SPACE SHOWER FILMS
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カメラは、東出が出演した映画『福田村事件』の撮影現場にまで入り込み、監督の森達也にも、東出についてのコメントを引き出している。ドキュメンタリーとはいえ、別の映画製作現場に撮影スタッフが入り、その監督を出演させるなど異例中の異例だ。森監督の懐の深さはもちろんのこと、東出がそれだけ、語るに足りる俳優であることを証明している。

山中での生活でも、撮影現場でも、東出が魅力的な人物であることは十分に伝わってくる。

東出が地元の人々へのインタビューでは、多くの人が彼への賛辞を述べている。「田舎暮らし」がブームだが、中途半端な気持ちで都会を離れたはいいが、田舎の不便さに慣れず、地元の人々との人間関係にも溶け込めず失敗に終わるケースも枚挙に暇がない。

その点で言えば、彼は見事なまでに人間関係に溶け込み、その不便さをも楽しんでいるようにさえ見える。

また、MOROHAのラップのシーンも、演出的にアクセントとして効いている。

宮地監督が多くの時間と労力をかけただけあって、東出の過去から現在を、余すところなく描いている。それでも宮地に言わせれば「まだまだ作品に描き切れなかった」と言わしめている。劇場版だけに、時間に制約があったことを悔やむ宮地だが、ディレクターズカット版として、再編集される可能性もあろう。

物語の最後、東出は本作を通して、行き別れた自分の子どもに対して、父としての生き様を見せる「WILL=遺言」であると語る。現実として、元妻とともにフランスに移住した3人の子が本作を劇場で観る可能性は限りなく低いだろう。

しかし、こうして映像として残すことで、いつしか“父のその後”を目にすることがあるかも知れない。東出は、そんな期待を抱きつつ、本作に出演したのだろう。

東出が“いい人”であることは本作を見れば明らかだ。才能に秀でた俳優であることも、スキャンダル後も出演オファーが引きも切らないことを考えれば、疑問を差し挟む者もいないだろう。

しかし、あらゆる所に落とし穴を作り、落ちた者をさらに叩き落とす有象無象がうごめく芸能界を渡り歩くには、東出は純粋過ぎるのではないだろうか。そういう意味では、現在の彼の生活は、芸能活動においても人間関係においても、ちょうどいい距離感なのではないだろうか。

(文・寺島武志)

【作品概要】
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
プロデューサー:高根順次
製作・配給・宣伝:SPACE SHOWER FILMS
音楽・出演:MOROHA
出演:東出昌大、服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也
©2024 SPACE SHOWER FILMS
2024/日本/カラー/ビスタ/140分/DCP/G
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