エンタメ作品としてのわかりやすさ
スタジオジブリとの違いでいうと、大きく感じたのは「わかりやすさ」だ。
スタジオジブリの作品は、いい意味で余白を残している。例えば『となりのトトロ』に登場するトトロやまっくろくろすけは、イマジナリーフレンドという捉え方もできる。「母親を亡くしたメイやサツキが寂しさから生み出したお友だち」という見方もあるだろう。
一方で「トトロは実際に存在する」という見方も楽しい。「日本の農村部には、まだこんな生き物もいるんだよ」とも捉えられる。こうした解釈の幅が広いのは、スタジオジブリが「明かさない」からだ。大人になると議論が楽しいが、子どものころはちょっと分かりにくい側面もあった。良くも悪くもスタジオジブリには「言わない(引き算の)美学」があると感じる。
その点、今作は非常に分かりやすい。冒頭でちゃんと「ラジャーが何者か」の説明をしてくれる。またところどころで「想像力がたくましい子ども」と「イマジナリーフレンドが見えなくなった大人」との対比を挟む。「作品で伝えたいこと」を丁寧に教えてくれるため、子どもでも分かりやすい。
特に、最近のコンテンツでは「分かりやすさ」がすごく重視されているように感じる。その点を見てもスタジオポノックは時代に合わせつつ「子どもでも理解しやすいものを作ろう」と考えているのかもしれない。ここもスタジオジブリとは大きく違うポイントだ。
『屋根裏のラジャー』はスタジオジブリ出身のスタッフが作った作品だ。実際に、ジブリを感じる部分も多い。
しかし、作品から感じたのはスタジオポノックの「ジブリをはじめとした日本アニメを超える作品にしよう」という気概。そして「子どもに作品を届けたい」という意識だった。映像・ストーリーともに、両者はまったく違う。
『屋根裏のラジャー』はスタジオポノックにとって、まだ2作目の長編アニメーション作品。今はジブリより知名度は低い。しかし、もしかしたら10年後、ニュースタンダードとして日本アニメ界を背負うかもしれない。
(文・ジュウ・ショ)
【作品情報】
映画『屋根裏のラジャー』
2023 年12 月15 日(金)全国東宝系にて公開
監督: 百瀬義行
プロデューサー:西村義明
制作:スタジオポノック 製作「屋根裏のラジャー」製作委員会
原作: A.F. ハロルド「The Imaginary 」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)
出演: 寺田心 鈴木梨央 安藤サクラ 仲里依紗 杉咲花 山田孝之 高畑淳子 寺尾聰 イッセー尾形
公式サイト