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ラストシーンの意味は? 終盤に込められた狙いとは? 映画『トラップ』評価レビュー。M・ナイト・シャマラン最新作を徹底考察

text by 冨塚亮平

『シックス・センス』『オールド』の鬼才M.ナイト・シャマラン監督の最新作『トラップ』が公開中だ。世界的アーティストのアリーナライブを溺愛する娘と楽しむ家族思いの父親はサイコな切り裂き魔だった…。作品の細部に着目したネタバレありのロングレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

※本レビューでは映画のクライマックスについて言及があります。

【著者プロフィール:冨塚亮平】

アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部准教授。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo編集室)。

ストーリーを牽引する左の顔と右の顔の対立

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
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 ジョシュ・ハートネット演じる子煩悩な父クーパーにはもう一つの顔がある。実は、彼は連続殺人犯ブッチャーでもあったのだ。久々の完全オリジナル作品となったM・ナイト・シャマランの監督最新作『トラップ』は、この仕掛けを本編の序盤、さらには予告編でもすぐに明かしてしまう。

 たとえば、本作に明らかな影響を与えているアルフレッド・ヒッチコック『サイコ』(60)では、殺人犯ノーマン・ベイツの真の姿、言いかえれば「裏の顔」を観客から隠すことこそが、映画のサスペンス性を高める上で重要な役割を果たしていた。

 対して『トラップ』では、表の顔と裏の顔の対立に代わって、左の顔と右の顔の対立こそがストーリーを牽引する。そしてこの左右の対立は、『サイコ』における表裏の対立とは全く逆に、観客に対してはじめからあからさまに画面上に明示され続ける。

 すでに別稿でも述べたとおり、ハートネットの左右の顔はそれぞれ、左側が優しい父クーパー、右側がシリアルキラーであるブッチャーと対応している。※1 そして、二つの顔のいずれかのみが画面に映っている場合には、われわれは隠されている顔ではなく、映されている顔の方に注目せねばならない。本稿では、この法則を念頭に置きつつハートネットの顔と身体がどう切り取られているかを追うことで、とりわけ評判の悪かった映画終盤の展開と結末について改めて考えたい。

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※1「ジョシュ・ハートネットとシャマランの2つの顔」『映画秘宝』2024年12月号、66-67頁。

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