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常に隠されず見えている部分を注視すること

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
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 まず『サイコ』のソール・バスを思わせるアーロン・ベッカーによるタイトルデザインでは、登場するあらゆる名詞について、単語に含まれる線の一部が画面から隠されている。この事実は、一見すると「隠すこと」の重要性を示唆しているようにも思える。

 だが、ハートネットの顔および身体の左右をはっきりと区別したサヨムプー・ムックディプロームの奇怪な撮影に慣れるにつれて、事態はむしろ逆であることが明らかになる。たしかに『トラップ』では被写体の一部が不自然な形でカメラから隠され続ける。しかし、そこでは常に隠されず見えている部分の方が肝心なのだ。※1

 冒頭の車内場面では、律儀に信号待ちをする父クーパーが、ライヴ会場に急ぎたい娘ライリー(アリエル・ドノヒュー)を苛立たせる。この時カメラは、運転席に腰かけるハートネットの左半身を左から捉える。同様に会場到着後も、娘のために家族サービスに励んでいるときのハートネットは、しばしば左半身を強調する形で撮影される。※2

 対照的に、彼が会場内で(とうてい連続殺人犯であるとは信じ難いような些細なものを含めた)悪事に手を染める際には、母の幻とともにいずれも彼の右半身が強調される。たとえば、ブッチャーがトイレの個室にこもり、スマートフォンで監禁した男の状況をはじめて確認する場面では、直後に個室から出て手を洗うハートネットの右半身が画面手前側から捉えられ、その奥に老女の幻が現れる。

 同じ女性の姿は、ブッチャーが売店の油に細工をして女性店員に怪我を負わせた後、担架に乗せられた彼女を捉えたハートネットの視点ショットのなかにもう一度出現する。続く切り返しショットは、正面を向いたハートネットの顔、その右半分だけを奇妙に切り取って映し出す。

 彼の悪事と身体の右側、そして老女の幻との連関が二度にわたり強調されることで、この映画では隠されずに画面内に現れているハートネットの姿にこそ目を凝らさなければならないことが観客に伝えられる。※3

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※1 シャマランはすでにドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』(2019-23)のシーズン3第5話“Tiger”(撮影は後に『ノック 終末の訪問者』(2023)にも参加したローウェル・A・マイヤー)において、夏祭りの出店で顔の左半分のみに虎のメイクを施された主人公リアンの顔を左右両側から交互に撮影する演出を試みている。そのため、本作全体を貫くこの奇想そのものは、撮影監督ムックディプロームではなくシャマランの発案である可能性が高い。

※2 同時に、ライヴ場面では照明の色彩(青/赤)がクーパー/ブッチャーの対立に重ね合わされる形で使用されてもいる。

※3 刺青を悪と結びつける発想それ自体は可愛らしいものだが、後にリストバンドで隠すことになる刺青が施されているのもまた、ハートネットの右手首である。

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