照射される未来
世界中が経験したコロナ禍の街を舞台にホロコーストという過去が語られていくことでそれが決して終わったことではなく、今も起きていることであり、未来にも起こりえる問題であることが浮き彫りになっていく。
自分たちが心地よく暮らしていくために他者を排除しようとすることが如何に身勝手で愚かな行為であるかに改めて気づかされる。たとえどんな正義があろうと、すべての戦争の正体は大量虐殺に過ぎないのだという当たり前のことに。
1945年、ホロコーストを生き延びたユダヤの人々はヨーロッパを逃れた。国際連合によるパレスチナ分割決議に基づき、1948年5月にイスラエルを建国した。今イスラエルは、自国を守るという正義の下、パレスチナのガザ地区で大量虐殺を行っている。過剰な防衛本能により暴走したイスラエルの正義感をかつて同じような正義感で彼らを迫害していたヨーロッパは止めることができずにいる。
「歴史は繰り返す」とローマの歴史家クルチュウス・ルーフスは言った。過去に起こったことは、同じようにして、その後の時代にも繰り返し起こると。
人間は愚かだ。それを知っているからこそ国際法は原則として戦争を禁止し、外交手段としての戦争を認めていないのだろう。
「人間が二度と同じ歴史を繰り返すことができないように」
インターミッションの15分を挟んで4時間半、およそ130箇所に渡って映し出されていく現場の中には、気候正義を訴えるデモで声を上げている人々の姿もあった。そこに戦況の悪化でパン一個の値段が1年前の200倍になった中で食料を要求して声を上げた人々のエピソードが重ねられる。ドイツ軍が彼らを射殺しようとしたこと。人々は飢えと寒さで死んだこと。その事実が気候変動の向こうに待ちかまえている食糧難という未来と重なっていく。
それでも民衆は声を上げ続けるだろう。権力の過ちに何度倒されても、歯を食いしばって立ち上がるだろう。未来のために。それもまた繰り返されてきた歴史のひとつだからだ。4時間半に渡る長い長い想像と思考の旅。過去と現在を直視しながらわたしは未来に思いを馳せる。
「諦めてはいけない」
民衆の瞳に宿る光に去来したのは、シンプルで、当たり前の誓いだった。
(文・青葉薫)
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