三者三様のキャラクターとのんの七変化
この物語で主にスポットがあたる3人の主要人物は誰も彼もが曲者ぞろいでありながら、三者三様のキャラクターを見せつけている。
滝藤賢一は文豪の格好が似合いすぎているうえに、東十条の偏屈さと純粋さの両面を引き出していて、田中圭が演じる遠藤の仕事ができる編集者っぷりも板についていた。なおかつ、恋愛に発展する気配がまるでないくらい、ふたりともちゃんと加代子を小馬鹿にしているのが良い。
ただ、何より目がいくのは加代子を演じたのんの七変化っぷり。作品内ではとある事情によってペンネームを使い分けるのだが、名前だけでなく態度や表情までも、場面に応じてコロコロと変えていく。
ドラマ『TRICK』(2000~)や『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(2010~)シリーズなどに代表される堤幸彦監督作品ではお馴染みとなっている、何事にも気後れせずにズイズイと道なき道を進んでいく女性たちの中でも、一際、自信満々でそのうえ悪知恵も働くのがのんの役柄だ。
「もちのロンです!」などのキャッチーな返しから、東十条に向かって放つ「男尊女卑クソジジイ!」のセリフまで、一度聞いたら耳から離れないパワーワードを幾度となく放つ。
さらに、ピュアなメイドを演じて東十条を誘惑したかと思えば、ときには目をひん剥いて感情を露わにするなど、清々しいほどの豹変っぷりだった。何食わぬ顔で東十条を罠にかける姿に可愛げなどあったものではないが、のんの愛嬌もあわさってどこか憎めない。
お世辞にも性格が良いとは言えないものの、どんな場所だろうと自らの独壇場にしてしまう加代子の魅力に最後まで押し切られてしまった。
個人的に加代子がひとりで書店周りをするシーンが、原作を読んだときからお気に入りだったので、限りなく原作どおりに再現されていて嬉しかった。ぜひ、彼女の情熱と怨念が込められた渾身のパンチラインを劇場で体感してほしい。