1980年代への時代変更が生んだ昭和レトロ感
映画で印象的だったのは、物語がまとう昭和の雰囲気。ロケーション選びにも趣向が凝らされており、レトロな世界観が漂う空間を背景に、登場人物たちのコミカルな会話劇が繰り広げられている。
実は原作となった柚木麻子の小説で、物語の舞台となっているのは平成の時代。TwitterやMacといった固有名詞も何なく登場している。しかし、映画では1980年代へと時代変更が行われ、「山の上ホテル」に象徴される昭和レトロが映像の随所にちりばめられていた。
原作で加代子と遠藤が「め組の人」を熱唱するカラオケはスナックへ、小説をしたためる原稿はノートパソコンから原稿用紙へと変更され、物語には昭和の香りが否応なく立ち込めている。
作品内で流れる劇伴にもどこか懐かしさを感じた人が多いのではないだろうか。松原みきの「真夜中のドア~stay with me」や、石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」など、昭和のヒット曲が映像を彩り、登場人物たちの格好もすっかり時代に馴染んでいた。
そして何より、現代よりも多くの抑圧や理不尽な悲しみがあったであろう昭和の時代へと物語の舞台を変更したことにより、加代子の魅力が一層、輝きを増していたように感じた。