文学界への皮肉と小説家としての矜持
「出来レース」や「コネ」などの過激な言葉も多く飛び交い、小説家と出版社の力関係、書評家やカリスマ書店員の影響力など、文学界への痛烈な皮肉が剥き出しになっている本作。
授賞式での佇まいや好戦的なスピーチ内容からも、彼女の一連の行動に作者の忸怩たる想いが内包されていることは言うまでもない。
特に象徴的だったのは、銀座のCLUB「ジレ」で加代子が輝ける人と輝けない人の違いを東十条に尋ねるシーンだ。才能の差、努力の差と応える東十条に対して、加代子が放った言葉。
「私はそうは思いません! 現に才能があって努力をしても、一生スポットが当たらない人間はたくさんいる。そして、何の力もない人間がコネや政治のおかげで表舞台に立つことができる…本当にこの世は不公平だと思いませんか?」「でもね、そんな既存のルールに負けちゃいけないんですよ! スポットが当たらなかったら、スポットの下に飛び出せばいい!」
そう高らかに言い放ったあと、銀座の高級クラブで瞬く間に主役へと躍り出る姿を観て、加代子の虜になった人も多いだろう。
彼女を彼女たらしめているのは、権威のしがらみや男性優位社会への怒りであり、なすすべなく押しつけられる理不尽さに対する抵抗だ。そこに「自己犠牲の精神」はカケラもなく、自らの承認欲求と自尊心を武器に、妬み嫉みを燃やして道を切り開いていく。
文学界へのアンチテーゼがクローズアップされがちかもしれないが、著者の小説を書くことへの執念と情熱が込められた加代子が、あらゆる手段を使って成り上がろうとする姿を観て、あらためて小説家としての矜持をひしひしと感じた作品だった。
(文・ばやし)
【作品概要】
のん
田中圭 滝藤賢一
田中みな実 服部樹咲 髙石あかり / 橋本愛
橘ケンチ(EXILE) 光石研 若村麻由美
監督:堤幸彦
原作:柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫刊)
脚本:川尻恵太 音楽:野崎良太(Jazztronik)
主題歌:奇妙礼太郎「夢暴ダンス」(ビクターエンタテインメント)
製作幹事・制作プロダクション:murmur 配給: 日活/KDDI 企画協力:新潮社 特別協力:山の上ホテル
2024|日本|カラー|アメリカンビスタ│5.1ch|98 分│G
(C)2012 柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会
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