アドルフ・ヒトラーとエゴン・シーレの因縁
「ひまわり」を始めとするエゴン・シーレの作品はナチスドイツによるホロコーストの際、所有者のユダヤ人から略奪されたことがマッソンから明かされる。
本作では描かれていないが、アドルフ・ヒトラーとエゴン・シーレには因縁がある。1907年、エゴン・シーレも在学中だったウィーン美術アカデミーに入学を拒否されたのが当時画家を志していたヒトラーだったのだ。
写実性を重視する古典主義の作風だったヒトラーはその後、独裁政権を樹立するとシーレのような近代美術を組織的に強奪。無価値な「退廃芸術」として一掃した(ちなみに主人公アンドレ・マッソンの名も同じく退廃芸術と見なされたフランスの画家から拝借されている)。
ドイツ人の誇りを取り戻す為ともっともらしく訴えていたが、要は自分の絵を認めなかったアート界に対する個人的な逆恨みである。略奪された絵画は軍事資金を得る為に売られたり、ナチスに協力した者にチップとして渡されたりしていた。
マルタンの部屋に掛かっていたシーレの「ひまわり」もかつてこの家を所有していた故人がナチスに協力。ユダヤ人をアウシュビッツのガス室送りにした際、報酬として渡されたものとマッソンは推測する。故人にとっては盗品であると同時に自分がホロコーストに加担していた動かぬ証拠でもある。だから資産価値のある名画と知りながら、亡くなるまで口外することができなかったのだと。