「観客が考えるための”間”が大事」映画『アンデッド/愛しき者の不在』テア・ヴィスタンダル監督が語る演出術とは? インタビュー
レナーテ・レインスヴェ主演の映画『アンデッド/愛しき者の不在』が公開中だ。本作は、最愛の人を失った3つの家族が、アンデッド(生ける屍)となって還ってきた彼らと再会を果たす、北欧ホラーだ。今回は、メガホンをとったテア・ヴィスタンダル監督にインタビューを敢行。演出術について伺った。(取材・文:ナマニク)
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【著者プロフィール:氏家譲寿(ナマニク)】
文筆家。映画評論家。作曲家。日本未公開映画墓掘人。著書『映画と残酷』。『心霊パンデミック』サウンドトラック共作。ホラー映画評論ZINE「Filthy」発行人。コッソリと外国の自主制作映画に出演する隠れ役者。
一筋縄ではいかない疑問を真っ向から描いた異色ホラー
死人が蘇る映画……というと、『ゾンビ』(1978)のような生者の肉を喰らう食人鬼が終末を闊歩する、血みどろヒトコワ映画を思い浮かぶかもしれない。しかし『アンデッド 愛しき者の不在』に登場する“蘇生者”は、人は喰わない。ひたすら虚無を見つめる肉体だ。死んだ人間が蘇り、ただ、そこにいる。
典型的なゾンビを期待していると肩透かしをくってしまうが、実際、死んでしまった家族や恋人が虚無の存在として墓から起き上がってきたら、人々はどうするのだろう? 『アンデッド 愛しき者の不在』は、そんな単純かつ一筋縄ではいかない疑問に真っ向からぶつかる作品だ。
舞台はノルウェーのオスロ。アナ(レナーテ・レインスヴェ)は息子エリアスを亡くし、深い悲しみに暮れていた。ある日、彼女の父マーラー(ビョーン・スンクェスト)は墓地で微かな音を聞き、孫のエリアスの墓を掘り起こして自宅に連れ帰る。鬱状態だったアナは息子の蘇生に希望を見出し、マーラーと共に人目を避けて山荘で生活を始めるしかし、蘇ったエリアスは瞬きや呼吸はするものの、全く言葉を発さず、以前のような反応も見せない。
同じく、スタンダップ・コメディアンのデヴィット(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、事故で亡くなった妻エヴァ(バハール・パルス)が蘇生したことに戸惑いを感じる。
また、高齢のトーラ(ベンテ・ボシュン)は、亡くなった恋人エリーザベト(オルガ・ダマニ)が戻ってきたことで、過去の遺恨と対峙する……。
彼らは蘇った愛する人々が以前とは“異なる存在”であることに気づき、彼らとの新たな関係を模索する。しかし、蘇生した人々の行動は次第に予測不能となり、家族たちは深い葛藤と向き合うことになるのだった。
本作は「僕のエリ200歳の少女」、「ボーダー 二つの世界」で知られるスウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説「Handling The Undead」を原作にしている。しかし、原作が“蘇生者”に対する社会の反応を中心に据えているのに対し、本作はあくまで死者の蘇生という超常現象を通じて、生と死、愛と喪失、感情の複雑さを描いき、非常に小規模でメランコリックな物語となっている。
心情を中心にしたミニマムな映像化はスウェーデン本国で非常に評価され、ノルウェーのアカデミー賞であるノルウェー国際映画祭のアマンダ賞で4冠、6ノミネートされるに至った。
非常にストイックで静的な描写に徹した本作の監督テア・ヴィスタンダル。どんな思いがこめて映像化に挑んだのだろうか?