「ピクセルだけでは表せない”生き物”の様な感覚」
フィルム撮影にこだわったワケ
―――本作は非常に詩的でスローバーンな作品ですが、後半、水面が弾けるかのようにドキっとするようなシーンがいくつかあります。監督の短編『Vergins4Lyfe』(2018)と『Satans Barn』(2019)を拝見したのですが、いずれもスローバーンで後半に弾けるような刺激的な展開があります。
「スローバーンな展開が好きで意図的にやっているので、私のテイストなのかなと思います。物語を紡ぐときは、観客が考えるための”間”が大事だと考えています。映画には雰囲気とかトーンという武器もありますから。暗闇の中に何かを見いだしてもいい、キャストの微々たる動きを感じ取ってもらってもいい。それを存分に使ってこそできる表現をやりたいんです」
―――本作や『Stans Burn』はフィルム撮影ですよね。やはりフィルムの質感は監督の表現活動には欠かせないものでしょうか?
「欠かせないです。フィルムが醸し出す独自の雰囲気は、映画に説得力がでますから。もちろん良質な物語は重要ですが、物語が壊れてしまっていてもフィルムが持つ魅力で保てることも少なくありません。私自身、フィルムの質感で映画と繋がれる感覚を持っているからかもしれせん。
というのは、『Vergins4Lyfe』をデジタルで撮ったときに、あまり良いビジュアルにはならなかったと感じたんです。やはりフィルムの質感が好きだし、ピクセルだけでは表せない”生き物”の様な感覚といいますか…」
―――フィルムの質感を出すデジタル処理もありますが、現場での扱いが違うという部分でもフィルムを使う意味はあるのでしょうか?
「そうです。フィルムだとよりシビアに撮影しなければいけない。デジタルだとリテイクや追加撮影が容易なので、その緩さがスクリーンに露われてしまう。逆にフィルムは現場のシャープな感じが出ると思っています。それにフィルムだとスクリーンで見るまで結果が判らないですからね。その魔法もフィルムならではだと思います」
観客には映像をゆっくりとかみしめ、味わって欲しい。テア・ヴィスタンダル監督からそんな気持ちが伝わってきた。スローバーンな映画は多少人を選ぶが、『アンデッド 愛しき者の不在』は、ゆっくりと隙間を楽しみつつ、悲しい家族の物語に胸を打たれる作品になっている。
(取材・文:ナマニク)
【関連記事】
北欧ホラーの金字塔は…? 心がざわつく北ヨーロッパの恐怖映画5選。美しい自然と哲学的な物語に目を奪われる傑作をセレクト
「美の価値」を再考する。軽やかな力技とは? 映画『オークション 盗まれたエゴン・シーレ』考察&評価レビュー
絶望感が半端ない…。「冤罪」をテーマにした海外映画の傑作5選。伏線回収と衝撃のラストに鳥肌…見応えのある作品をセレクト
【了】