宮藤官九郎からのメッセージ

サンセット・サンライズ
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

 そしてこの町を最終的にまとめ上げた脚本家・宮藤官九郎にやられたなあと思う。彼は宮城県出身で、これまでに作品で何度か震災のことを取り上げている。ただ『サンセット・サンライズ』に至っては直接的に震災と対面することなく“その後”に触れている。

「俺ら外の人間はその(震災)話になるとどうしていいかわからなくて」

 宇田濱の住人と、西尾の会社の同僚たちが集まった芋煮会で、西尾はこう漏らしていた。あの日、東京にも被害はあったけれど、東北とは比べ物にならない。神戸の震災から30年が経過しても、当時を体験した人たちの傷は癒えることはない。私たちにはうまくかける言葉が見当たらない。つい、話題を逸らしてしまう。これらに対する、一つの答えが映画に見えた。

 そしてクドカンが脚本を担当したドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系・2024年)にもあった、コロナ禍についても深く触れている。当時、ありとあらゆる憶測が世界中に吹き荒れた。宇田濱では東京から訪れた人は2週間の自宅謹慎など、とにかく人混みから来た人はバイ菌扱い。お札をつたってウイルスが感染する、ソーシャルディスタンス、三密…など。これらは一体なんだったんだろうかと思うけど、このシーンの端々に“正しく恐れる“という、映画からのメッセージが描かれていたと私は思う。

 とにかく全139分、心は持っていかれた。映画が終わって、後席で雑音を立てていたのはどんな奴だと振り返ると、60代くらいのおっさんだった。涙を拭っていた。その後ろのカップルも女性が目を赤くしていた。そして私=おばさんも放心状態。そんないい映画でした。

(文・小林久乃)

【作品概要】

『サンセット・サンライズ』
2025年1月17日より全国ロードショー  
出演: 菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか 
脚本:宮藤官九郎  監督:岸善幸『あゝ、荒野』『前科者』『正欲』
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社)
製作幹事:murmur 制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給:ワーナー・ブラザース映画  
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

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【了】

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