2025年は分岐点。未来のために、今大人が選択すべきこととは? 映画『2040 地球再生のビジョン』評価&考察レビュー

text by 青葉薫

自らの身体を実験台に「砂糖を摂取し続けると人体にどのような影響を及ぼすのか」を60日間に渡って記録した映画『あまくない砂糖の話』で知られる、俳優・映画監督デイモン・ガモーが、祖国オーストラリアを舞台に、地球温暖化に警鐘を鳴らすドキュメンタリー『2040 地球再生のビジョン』が公開中だ。見どころを解説する。(文・青葉薫)

——————————

【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

2040年に大人になる4歳の娘のために

© 2019 ALL TERRITORIES OF THE WORLD   © 2019 GoodThing Productions Pty Ltd, Regen Pictures Pty Ltd
© 2019 ALL TERRITORIES OF THE WORLD © 2019 GoodThing Productions Pty Ltd, Regen Pictures Pty Ltd

 危機感の醸成でも警告でもなく、解決策の提示に焦点を当てているのが環境ドキュメンタリーとしては斬新だった。

 それは昨今の記録的猛暑や頻発する気候災害によって地球温暖化がわたしたちの日常を脅かす身近な現実になってしまったことの裏返しでもある。『不都合な真実』(2006年)が温暖化の危機を警告した20年前とは明らかに状況が違う。わたしたちは『不都合な真実』が予見した通りの未来を生きている。こうなるのは20年前からわかっていたのに何もしなかったせいで。享楽の浮世を愉しみ続けるために問題を先送りにしてきたせいで。

 本作を監督したデイモン・ガモー氏の祖国オーストラリアも気候変動による洪水や山火事、沿岸の浸食、サイクロン、猛暑などの異常気象が頻発している国のひとつだ。危険度の高い地域を特定し、気候災害が起きる前に恒久的に移動させることも必要ではないかと警告する声もあるという。

 故郷がそこまで逼迫した状況でありながら、彼は温暖化の原因とされている化石燃料の使用や大量生産大量消費を是としてきたわたしたちの社会を声高に批判したりしない。

 自らの身体を実験台に「砂糖を摂取し続けると人体にどのような影響を及ぼすのか」を60日間に渡って記録した前作『あまくない砂糖の話』(2014年)がそうだったように、本作でも温暖化を「43歳の父親である自分と2040年に大人になる4歳の娘」という「我が家の問題」として再定義した上で、解決策としての客観的事実を娘の未来の為に提示していく。夢想家の戯言ではない、現実主義者の彼が知り得た事実として。

1 2 3 4 5 6
error: Content is protected !!