際立つティモシー・シャラメの音楽的素養
もじゃもじゃヘアにボロボロの服装で、まるで捨て犬のような佇まい。しかし、ギターを持って歌い出すと底しれない魅力と才能を感じさせる若き日のボブ・ディランを演じるのはティモシー・シャラメ。劇中で披露する歌やギターパフォーマンスは、すべてシャラメ本人によるもので、この作品のために数年間かけてレッスンを積んできたという。ボブの特徴的な声を真似しつつも、シャラメ独特の音楽的なエッセンスも垣間見え、アーティストとして非常に魅力的。さらに、不遜だけどシャイな雰囲気や、無為で儚げな眼差しも見事に再現しており、本作はこのシャラメの歌と演技を堪能するだけでモトが取れそうな勢いだ。
ボブは成功への道を駆け上がっていくが、有名になったことで沸き起こる煩わしさや憔悴もテンプレのように盛り込まれ、そこに恋人シルヴィとの出会いと別れ、そしてスター歌手ジョーン・バエズとの微妙な関係も描かれていく。
この稚拙で生々しい恋模様は、青春映画の王道的な展開。それでもシャラメの魅力が爆発しており、女性側からすればほっておけない感じも伝わってくる。ベッドを共にして、朝起きたらボブがギターで「風に吹かれて」を作っていて、その場で一緒に歌う、という場面は、天才ミュージシャンと交際するならこうであってほしいと誰もが夢想するような、たまらないシチュエーションだ。