心情の変化を丁寧に表現する中島健人
小説家志望の神林リク(中島健人)は大学時代に、同じ学部でミュージシャンを目指す前園ミナミ(milet)と運命的な出会いを果たす。意気投合したふたりが交際するまでに時間はかからず、とんとん拍子で結婚まで辿りつく。
しかし、彼らが夢見ていた未来像はくっきりと明暗が別れることに。元々、小説家を目指していたリクは堂々とデビューを果たし、ベストセラー作家としての地位を確立したものの、ミナミは自身の音源を音楽事務所に送るのを躊躇したまま、リクを支えることに献身する毎日を過ごしていた。
やがて、夫婦の想いがすれ違うようになり、決定的な亀裂が走った夜。リクが起きたベッドの横には、ミナミの姿はなかった。
彼を取りまく環境も一変していた。昨日までベストセラー作家だったはずのリクは、とある出版社のいち編集員に。そして、リクの妻として家庭を支えていたミナミは、誰もが知る大人気アーティストへと変貌していた。
さらに、パラレルワールドにスライドしたリクの人生には、運命の相手とも思えたミナミとの接点が一切ないことが明らかになる。
今までいた世界とまったく異なる現状に戸惑いと憤りを隠せないリク。それもそのはずで、時間を尽くして書いた渾身の物語が、すべて存在しなかったことになっているのだ。完全に心が折れてもおかしくはない。
それでも彼は不条理な状況にかかわらず、ひたむきに努力できる人間だった。最初こそプライドが高く意固地な部分も垣間見えたが、自身の置かれた世界で目の前の仕事にまっすぐ向き合っていく。
そんなリクの姿は、アイドルの第一線で活躍を続けながらも、俳優やアーティストなど、それぞれの環境で着実にキャリアを築いていく中島健人ともどこか重なる部分があった。リクが覚悟を決めるまでの心情の変化も、彼の演技によって滑らかに表現されていたように思う。