脇を固めるキャストにも注目
物語において重要な存在なのが、ミナミの祖母である和江(風吹ジュン)と、リクを支える先輩・梶原恵介(桐谷健太)こと”梶さん”だ。ふたりがいなければ、リクは物語を最後まで走り抜けることなどできなかった。
映画のなかでは、誰もがリクの言動に戸惑いを見せる。実際、これまで編集部で真面目に働いていた社員がいきなり荒唐無稽な話を始めたら、ほとんどの人間が気でも狂ったのかと思うだろう。
しかし、和江と梶さんはリクの話を否定せずに聞き入れている。認知症によって娘のミナミの名前さえ忘れてしまう和江は、パラレルワールドでは他人であるはずのリクの言葉を素直に受けとる。話の要領は得ずとも、すべてを理解しているのではないかと時折感じさせる、風吹ジュンの絶妙な演技はさすがだった。
また、元の世界でも〈ifの世界〉でも変わらずリクの良き理解者だった梶さんも、リクの話していることを絵空事だと切り捨てることはない。入口を閉ざすことなく聞き入れてくれる彼の存在は、リクにとってどれほど心強かったことか。
梶さんを演じたのは、映画『ラーゲリより愛を込めて』(2023)で中島健人と共演していた桐谷健太。前述の現場からプライベートでも仲がいい間柄だったこともあり、映像のなかでのふたりもすでに仲睦まじい空気感が醸成されていたように感じた。
和江と梶さんがパラレルワールドからやってきたリクを、自然な態度で受けとめる根底にあるのは信頼と願望だ。この人が言っている言葉なら受け入れられるし、荒唐無稽な話でも信じたいと思える。ふたりとも受け入れがたい現実を胸に秘めているからこそ、リクが必死に絞りだす言葉に耳を傾けられるのだろう。