原作のキャラクターを忠実に再現する橋本愛

映画『早乙女カナコの場合は』
©2015 柚木麻子/祥伝社 ©2024「早乙女カナコの場合は」製作委員会

 物語の主人公は、大学進学と同時に友人とルームシェアをして暮らすようになった早乙女カナコ(橋本愛)。入学式の日、桜の花びらが舞うなかを彼女が歩いていると、各サークルが熱心にビラ配りをするなか、芝居がかった仕草で胸を押さえて苦しむ男を見つける。それが、演劇サークル「チャリングクロス」のメンバーのひとり、脚本家志望の長津田(中川大志)だった。

勝手にサークルのSNSに写真を使われ、チャリングクロスの部室を訪れたカナコは思いがけず長津田と再会する。そして、お互いの趣味で通じ合えたことをきっかけに、ふたりは想いを寄せあっていく。

 生真面目な性格ながら、10年にわたってひとりの男に翻弄される主人公・カナコを演じたのは橋本愛。すらりとした長身、すっとした鼻筋、聡明さを宿した瞳と、原作小説で描写されていたカナコがそのまま現れたようだった。絶妙にダサい普段着だけでなく、海でホタルイカを掬うためのウェーダー(水中に入るときに着用する防水の胴長靴)さえも何なく着こなす姿は見事。

 また『私にふさわしいホテル』で有森樹李役として主演を務めていたのんが、本作でも同役名で出演しており、カリスマ書店員役を演じていた橋本と再共演を果たしている。

 連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK、2013)で脚光を浴びたふたりが、柚木麻子原作の映画でそれぞれ主演を務めていることに、今に至るまでの背景も含めて、感慨深い気持ちを抱いた観客も多いのではないだろうか。

 一方、マイペースで無神経な言動が目立ちながらも、純粋でどこか憎めない長津田を演じた中川大志は、情けない姿の裏にある“放っとけなさ”を甘い声や表情の機微で表現してくれた。あまり見慣れない長髪姿も似合っており、サークルの後輩である麻衣子(山田杏奈)が長津田に一目惚れする気持ちも理解できる。

 彼がのらりくらりと生きる姿は、カナコが就職することになった出版社の先輩・吉沢(中村蒼)に告白されてからも変わらない。ただ、別れても隠しきれない嫉妬心やカナコへの想いを引きずる気弱な部分は、物語が進んでいくにしたがってどんどん浮き彫りになっていく。

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