制作陣のほどばしる原作に対する愛

映画『早乙女カナコの場合は』
©2015 柚木麻子/祥伝社 ©2024「早乙女カナコの場合は」製作委員会

 本作品の映画化にあたって原作者の柚木麻子は「あまりにも美しい愛についての映画で自分の原作かどうか、疑ってしまった」とコメントしていたが、実際、原作のコメディチックな要素は意図的に薄くされていたように感じた。

 小説のキレッキレな柚木麻子節や、カナコの自虐的なセリフは少なくなっており、思うようにならない恋愛模様や微妙な距離感で押し引きされる人間関係がフィーチャーされる。それは、現代の価値観にアップデートした結果とも言えるだろう。

 原作小説では東京にある著名な大学の「〇〇大学生あるある」がふんだんに盛り込まれている。ある意味、典型的な固定観念に基づくラベリングだからこそ、フィクションとして笑ってしまう部分もあるが、本映画ではより時代に合わせたストーリーテリングが行われていた。

 また、原作では他大学出身の5人の女学生から、早稲田大学に属するカナコの素顔を浮かび上がらせていく連作短編の形式がとられていたため、映画では構成を変化させて主要な登場人物を減らすなどの工夫が凝らされている。

 ただ、原作でカットされたエピソードのエッセンスは、物語の随所にちりばめられていた。池に投げた指輪を探すシーンや、大学の食堂で口喧嘩して去っていく麻衣子に美奈子 (久保田紗友)が言い放ったセリフは、本作品には登場していない原作キャラクターが登場する章からピックされている。

 万人から好かれるとは言いきれないキャラクターでもどこか嫌いになれないのは、矢崎監督率いる制作陣が、セリフや立ち振る舞いなどを絶妙な塩梅で調整してくれているからだろう。エンドクレジットで真っ赤な「愛」が強調される演出からも、制作陣の原作に対する愛が伝わってきた。

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