トム・スターンとリーアム・ニーソン
2人のプロフェッショナル
―――今回、ケリー・コンドンさんが演じるテロリスト・デランは敵役ではあるのですが、彼女の終盤の攻撃的な振る舞いには、殺された弟の復讐という大義があり、冒頭、爆破テロを仕掛けるシーンでは、その場に居合わせた子供たちを逃そうとするなど、悪人として描かれていません。ドラマが勧善懲悪になるのを避けておられるように見えました。
「いい悪役がいなければ映画は面白くなりませんよね。ただ、勧善懲悪ではなく一面的ではないキャラクターを描くようにしています。たとえばデランは非常にインパクトのあるキャラクターですが、政治的信念と弟への愛情の間で葛藤している。こうしたキャラクターの多層的な部分は脚本でも十分に表現されていて、私も強く惹かれました」
―――本作ではアイルランドの国民的詩人であるイエーツの名前も出てきますが、ロレンツ監督がプロデューサーとして参加された、クリント・イーストウッド監督作品『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)でもイエーツの詩がとても重要な形で引用されていました。
「実は今回の引用は脚本に元々入っていたもので、私のお手柄ではないんです(笑)。とはいえ、詩というのは使い方次第で非常に効果的な表現になると思っています」
―――今回、ロレンツ監督の監督デビュー作である『人生の特等席』(2012)以来、10数年ぶりにトム・スターンさんを撮影監督に起用されていますね。
「先ほどタイトルが挙がった『ミリオンダラー・ベイビー』をはじめ、クリント・イーストウッド作品で共に仕事をしてきたトムとは、言葉を交わさずとも意思疎通ができる間柄です。今回はアイルランドで久々に再会して、なんと7年半ぶりだったことにその場で気づきました。また一緒に仕事ができて、本当に楽しかったです」
―――リーアム・ニーソンさんとは、前作『マークスマン』(2021)に続き2度目のタッグとなりました。
「彼は本当に素晴らしい人で、仕事をしていても楽しいんです。編集の段階で、何度も編集者と一緒に『これはすごい』と彼の演技に驚かされました。彼はどこを見てどう動くべきかを完璧に把握していて、その才能は本当に唯一無二です」
―――モヤが夜に家出をしようとしているのを引き止めるシーンでは、「どうするのか決めるのは君だ」と伝えて背中を向けた後、鼻歌を歌いますが、これはニーソンさんのアドリブでしょうか?
「はい。彼のアドリブです。脚本には特に書かれていなかったのですが、非常に効果的でしたね。彼は目立つ形ではなくても、ストーリーを運ぶ上で重要なことをきっちりやってくれる。それが彼の名優たる所以だと思います」
(取材・文:山田剛志)
【関連記事】
「最も変化が起きているのはタイ映画」大阪アジアン映画祭プロデューサー・暉峻創三が語る映画祭の役割とは? 【後編】
「バウスシアターは今もどこかを航海している」『BAUS 映画から船出した映画館』甫木元空監督、単独インタビュー
バラエティ番組でお馴染みの音楽、意外すぎる元ネタは? 映画でお馴染みの楽曲5選。一度聴いたらクセになる名曲を解説
【了】