台北という雀卓で躍動する4人の青年たち
今回4Kレストア版での再公開が実現した『カップルズ』の原題は「麻将」で、これは麻雀のことである。『牯嶺街少年殺人事件』から多くのキャストが引き継がれ、あたかもモニュメンタルな同作に別のゲームの規則をもちこんで攪乱し、映画作家みずから『牯嶺街少年殺人事件』を茶化しているようにも見える。麻雀のように諸々の局面が変奏され、移し替えられ、現代台北にうごめく陣営が4つのカテゴリーに大別される。
まずは牯嶺街にたむろする不良少年たちが現代にタイムスリップしたような4人組チーム――レッドフィッシュ[紅魚]、ルンルン[綸綸]、ホンコン[香港]、トゥースペイスト[牙膏]。そして4つの場所――ハードロックカフェ、少年たちのアジト、大人たちのマンション、そして街頭。4つの陣営――ティーンエイジャー、在住外国人、父兄たち、そしていまとなっては最も重要に思えてきた大人の女性たち。台北という大都市を雀卓に見立てた上で、4人組/4箇所/4陣営がうごめき、混ざり合い、ぶつかり合って「麻将」が形成されては消失する楊徳昌の見えざる手には、ミケランジェロ・アントニオーニの寂寞の感触が濃厚にただよう。
女性たちと手当たり次第に肉体関係を結び、食い物にしてきたドンフアン気取りの少年ホンコンを張震[チャン・チェン]が演じているが、もちろん彼は『牯嶺街少年殺人事件』で演じた主人公・小四の真逆のキャラクターをあえて割り振られたはずだ。小四は同作のラストで好きな少女を刺殺して破滅するが、『カップルズ』での彼は、からっぽな高級マンションの一室で大人の女性たちからいじめられて号泣し、その号泣スイッチは最後まで解除されない。あたかも小四の生まれ変わりにきついお灸を据えているように見えて、最高に面白い。今回久々に見直した筆者が最も気に入っているシーンである。