荒々しくも美しいラストカット

映画『カップルズ』 4Kレストア版
© Kailidoscope Pictures

 上記の4人組/4箇所/4陣営のうごめき、組み替えが、麻雀のように素早く複雑に変化しつつ、誰かによっておびき出されるかのように、運命の暗転が忍び寄ってくる。登場人物のプランに沿ってなにかが起こる時よりも、誰ともつかぬ気味の悪い配剤によって運命が狂っていくさまを目撃するとき、私たち観客は楊徳昌というおそるべき映画作家の別次元の才能に打たれるほかはない。

『台北ストーリー』『恐怖分子』『牯嶺街少年殺人事件』『恋愛時代』では、何が起きようと、それが再起不能な悲劇であった時でさえも、楊徳昌の映画は台北という街へのオマージュだった。『カップルズ』のヴィルジニー・ルドワイヤンもまた夜の台北を彷徨し、ある人間と邂逅する。その相手が誰であるかはここでは書くまい。相手が誰にせよ、その相手とはこれからどんな関係を築くにせよ、さしあたっては問わずに済まそう。

 一組のカップル(複数形のカップルズではなく)が、鼎泰豊[ディンタイフォン]の看板と蒸包台の前でキスをする。店構えからして信義路と永康街の角にある本店だろう。蒸し暑そうな湯気が立ち昇り、入店順番待ちの客の群れや道ゆく人でごった返すなか、カメラが望遠レンズでフランス女と台湾男のキスをとらえる。表情からいって写り込む人々はエキストラではなく、ゲリラ撮影だろう。カップルの半袖シャツ、夏の夜の湿気、小籠包の湯気、人々の話し声、汗の匂い、車やミニバイクの騒音が混じり合い、それらのすべてが荒々しくも美しい、何にも代えがたく。

(文・荻野洋一)

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【了】

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