「マトラ」から紐解く1995年の台北

映画『カップルズ』 4Kレストア版
© Kailidoscope Pictures

 ローカルであること、ローカルの「今」を描くことを徹底すると、それは海外からこの地にやってきたものたちの存在を抜きには語れない。エドワード・ヤンが達したこの視点は、当時の台北の実情を生々しく反映したものだ。その象徴が、作中でもマルトに似た名前として言及される、マトラというフランスの会社だ。

 事実上台湾の首都として発展を遂げながら長らく市内鉄道網を持たず、道路渋滞が極度に深刻化していた台北は、ついに最初の市内路線、木柵線(現在は路線延伸して文湖線と呼ばれる)の開設に乗り出す。そしてこの路線に採用されたのが、マトラ社が売りにする新交通システムだった。だが1991年に開通するはずだった木柵線は、ヤンが『カップルズ』を撮影していた95年になっても、なお開通しない。基礎工事は終わっているのに、試運転の段階で車両火災が続けざまに発生。さらに脱線事故も起きたりと、とても一般市民を乗せて営業するわけには行かない状況が続いていたからだ。

 市民のマトラ社に対するいら立ちは次第に募り、もう同社に公的な資金を投じ続けるより自分たち台湾人ですべてやった方がマシだ、という感情が芽生えてくる。ひいては、外国から来たものたちが富の集積する台湾を草刈り場にして金を稼いでいる、という感情も芽生えてくる。それがピークに達したのが、ちょうど95年頃のこと。『カップルズ』は、街を支配し始めていたこの感情を、主たる背景として取り入れている。

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