『帰れない二人』(2018)を再構築する試み
最初の舞台は2001年、炭鉱の街・山西省大同[ダートン]。かつてこの街でロケされた初期作品『青の稲妻』(2002)の未使用カットやら、同地で撮影された短編とドキュメンタリーのフッテージが再活用されている。当時24歳のチャオ・タオは、あたりに不敵な視線を送り、からんでくるバイク男たちに岩石を投げつけ、ユーロビートに乗って激しく肢体を振動させ、地元・山西省のアルコール飲料「汾酒(フェンジュウ)」のキャンペーンガールとして得意の舞を披露する(チャオ・タオは北京舞踊学院の民族舞踊科の出身)。
よその土地で一旗あげたいビンとの仲は険悪なものになりつつある。物語の全体をつうじてチャオにはいっさいセリフがないが、「汾酒」のキャンペーンソングの歌唱を大同の街頭で披露していたから、彼女は口がきけないわけではない。しかし、大同を去ったビンとの別離以降、チャオがこの映画のなかで声を聞かせることはない。
第二の舞台は2006年、三峡ダム建設により水底に沈む運命にある古都・奉節[フォンジエ]。故郷の大同から約1500kmも離れた長江流域の雄大な風景の中を、チャオはビンを探して歩き回る。これは『長江哀歌』(2006)製作時に撮影されたにちがいない映像がたっぷりと使用されている。2001年の大同で別離を経験した男女が2006年の三峡ダムに流れていくというストーリーを、ジャ監督は『帰れない二人』(2018)でいちど描いているわけだから、今回の『新世紀ロマンティクス』は『帰れない二人』のリメイクと言ったら言い過ぎだが、リミックス的再構築になっている。