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俳優を太って見せる「ファットスーツ」は差別的? 映画業界やミュージカル業界に対する反発とは

text by 編集部

映画業界で俳優陣を太った人に見せるために多々使用される「ファットスーツ」。コメディ作品や、登場人物の変化を表現するため使用されるが、現在この「ファットスーツ」が様々な問題を引き起こしているようだ。早速、現地のメディアを参考にその詳細を確認していく。

太った人に変身できる「ファットスーツ」の使用に反発の声

ブレンダンフレイザー第79回ベネチア国際映画祭よりGetty Images

映画『ザ・ホエール』で主役を演じた俳優ブレンダン・フレイザーは、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞にノミネートされ、全米映画俳優組合賞(SAG賞)を受賞する快挙を成し遂げた。

フレイザーは、本作で過去のトラウマを過食で乗り越えようとする男性チャーリーを演じるため、体を太って見せる小道具的存在の「ファットスーツ」を着用した。

また、2022年のミュージカル映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』では、アガサ・トランチブル役を演じるエマ・トンプソンは「ファットスーツ」を着用すると決定。それに対して、反発の声が多く聞かれている。

エマトンプソン2022年のマチルダザミュージカルニューヨーク特別上映会よりGetty Images

米colliderによると、現在映画撮影で使用される「ファットスーツ」は、一つの映画作品を超えて重要な問題を提起しているようだ。

映画『ザ・ホエール』のチャーリーのように、主演俳優のルックスに合わないキャラクターが登場する場合、製作者は実際にその体型を持った俳優をキャスティングするのではなく、有名な俳優陣に「ファットスーツ」を着用させる傾向にある。

トム・クルーズも着用!
多くの映画で活躍した「ファットスーツ」の歴史

90年代後半から2000年代初頭にかけて、細身の俳優にファットスーツを着せることは、コメディ映画の究極の面白さであると考えられており、映画『愛しのローズマリー』(2001年)、『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』(1996年)、『ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々』(2000年)など、数多くの映画はこの発想に基づいて制作が行われ、多くは興行的に成功を収めている。

例えば、俳優のマイク・マイヤーズは『007』シリーズをパロディにした映画『オースティン・パワーズ』で「ファットスーツ」を着用。また、映画『007は二度死ぬ』では、Dr.イーブルの手下ファット・バスタードを演じる際に再びファットスーツを身に着けた。

マイクマイヤーズ2022年のアムステルダムワールドプレミアよりGetty Images

映画『クリック』では俳優アダム・サンドラー演じる主人公マイケルが、魔法のリモコンで人生を早送りし、未来の自分がジャンクフード中毒でかなりの体重増加を引き起こしていることが分かるのだが、ここでも「ファットスーツ」が使用されている。

さらに、映画『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』では、俳優トム・クルーズがレス・グロスマンを演じ、ハンサムな俳優が不恰好に見えるように「ファットスーツ」を着用し、濃いメイクを施した。

過去10年間で痩せ型の俳優を、太った人としてコメディに起用する傾向は少なくなってはいるが、完全に消えた訳ではないようだ。

最近の作品で言うと、映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)では、ガーディアンズの一員であるロケット・ラクーンが、トラウマやうつ病により体重が増加したマイティ・ソーを嘲笑するシーンがある。

インターネット上では「Thicc Thor(太ったソー)」という言葉が流行し、映画製作者たちは彼を太ったまま強くパワフルに描写した。

しかし、この映画は依然として、太った人を嘲笑ってもいいという考えや、イケメンで体作りに熱心な俳優を、太った人に見せるため「ファットスーツ」を着用させることが、コメディ映画作品の鉄板だという考え方を正当化しているようにも見える。

それは別の角度から見ると他の体型の俳優にとって、重要な役柄を演じる機会を奪うことになっている。

ハリウッドはこの問題に対応する様子を見せてはいないが、制作者やスタジオには、「ファットスーツ」に対する考え方を改める必要があるとされている。

現状は映画業界において「ファットスーツ」の使用がなくなることは無さそうだが、本当にこのスーツが必要なのか。皆さんはどう考えるだろうか。

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