出演者の一人に性加害報道も徹底した危機管理で炎上回避
「前作『12日の殺人』で、警察機関とその仕組みに関心を持ちました。ただし、前作は女性への暴力、今回は秩序維持作戦中の警察の暴力が焦点。『警察が警察を捜査する』という構図に、フィクションとしての可能性を感じました」と、監督は制作の成り立ちを振り返る。
捜査官のステファニーを演じたレア・ドリュッケールは、役作りにあたって本物の女性捜査官たちに話を聞いた。「仕事の技術的な内容はもちろん、使命感や困難さなどについても知りました。警察監察総局の捜査官は、警察仲間からも、市民からも好かれないという仕事で、彼女たちの孤独を感じました」。
冷静で有能だが人間味もある主人公を、絶妙に適切なトーンで演じ切るドリュッケールは、主演女優賞の有力候補になりそう。
監督からは心や体に傷を負った被害者を思いやる言葉も。「問題に思えるのは、政治権力の側から『その怪我はあなたに起きるべきではなかった』というたった一つの言葉も発されなかったこと。被害者は誰も自分のことなど気にしていないと感じるだろう。この映画はそのような意識が変わるきっかけとなってほしい」。
本作の裏側では別の問題にも直面している。警察の捜査介入部役を演じた俳優が、3人の元パートナーから性的暴力で告発されており、作品への影響が懸念されていた。しかし、カンヌ映画祭側は俳優の現地入りを許さず、問題は炎上せずにすんだ。危機管理がうまくいった例だろう。
【著者:林瑞絵プロフィール】
在仏映画ジャーナリスト。北海道札幌市出身。映画会社で宣伝担当を経て渡仏。パリを拠点に欧州の文化・社会について取材、執筆。海外映画祭取材、映画人インタビュー、映画パンフ執筆など。現在は朝日新聞、日経新聞の映画評メンバー。著書に仏映画製作事情を追った『フランス映画どこへ行く』(キネマ旬報映画本大賞7位)、日仏子育て比較エッセイ『パリの子育て・親育て』(ともに花伝社)がある。@mizueparis
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