スピルバーグの思想が凝縮された一連のシーンとは?
スピルバーグの両親は、電気技師の父アーノルド・スピルバーグ(1917年~2020年)と、コンサートピアニストとして活躍した母リア・アドラー(1920年~2017年)で、二人はスピルバーグが高校を卒業した年に離婚している。
HBO制作によるスピルバーグのドキュメンタリー『スピルバーグ!』(2017年)では、二人の離婚や実父との確執が彼自身の口で克明に語られており、彼のその後の人生やフィルモグラフィにも影を落としている。両親の死後に撮られたという本作では、この点にスポットが当てられているのである。
また、随所でスピルバーグ自身の映画についての”思想”とも言うべき気持ちが吐露されているのも本作の特徴だろう。例えば、カリフォルニアの高校に転校したサミーは、ビーチでの学校行事を撮影する。その後、パーティーの席で上映されたサミーの映像には、ユダヤ系であるサミーに暴力を振るっていたいじめっ子ローガンが、「美神」として映っていたのである。この場面を見て、「本当の俺はあんなんじゃない」と狼狽するローガン。そんな彼にサミーは「君は最低の男だけど、5分間だけ友達になりたかった」と語る。どんなに憎たらしい相手でも、カメラを巧みに使えば、ヒロイックに撮影できる。一連のシーンは、50年以上に渡り映画を撮り続けてきたスピルバーグの作家的スタンスを表しているように筆者には見えた。
キャスト陣も素晴らしい。特に注目は、母親のミッツィを演じるミシェル・ウィリアムズの演技だろう。芸術家特有の奔放さと裏の顔を使い分ける二面性の演技には、思わず舌を巻いてしまう。
また、主人公のサミーを演じるガブリエル・ラベルも、恋や家族の間で葛藤する少年サミーを好演している。
スピルバーグ自身も彼らキャスト陣の前で冷静さを保つのは難しかったようで、「衣装合わせの時点で号泣してしまった」のだとか。
なお、本作にはラストでちょっとしたサプライズも用意されている。映画ファンにとって宝物になること間違いなしの最高のラストシーンである。スピルバーグの愛に溢れたこの作品を、ぜひ映画館で嚙みしめたい。
(文・柴田悠)
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