火炎放射器で焼き払われ、銃剣で刺し殺される…。
戦場のリアルを克明に描く
主人公パウルをはじめとした兵士たちは、霧と煙に包まれた見通しの悪い戦場で、ひたすら突撃を繰り返す。ある者は銃で撃たれ、ある者は爆弾の餌食になる。そして生き残った者も戦車に轢き潰され、火炎放射器で焼き払われ、銃剣で刺し殺される。そこにはパウルが考える“正義”や“英雄”など存在せず、泥と血に塗れた肉体が死屍累々と折り重なる地獄があるだけ。本作では、そんな思わず目を覆いたくなる戦場のリアルを、冷たさを感じる青みがかった映像でこれでもかとばかりに見せる。このあたりの無常観も1930年版よりもつぶさに描写されている。
役者陣はみな熱演を披露しているが、一人あげるとすればやはり主役のフェリックス・カマラーになるのだろう。今まで舞台を中心に活躍してきた彼はなんと今回が映画初出演。顔を泥だらけにしながら戦場に送り込まれた兵士の悲哀を全身で表現している。特に注目は、艦砲穴で敵の兵士を殺したパウルが彼のカバンから敵の兵士の家族写真を見つけるシーン。相手の兵士も一人の人間だったと気づいた時の彼の慟哭は、多くの鑑賞者の胸を打つはずである。
また、フォルカー・バーテルマンによるサウンドトラックにも注目したい。1930年版では、音楽がほとんど使われず、わずかに愛国歌や民謡が流れる程度だったが、本作ではミニマルなインダストリアルノイズを基調としたアンビエント風の音楽や、汽笛のような不吉な音がメインとなっており、観客の不安を煽る曲調となっている。
とはいえ、本作のリメイクに決して不満がないわけでは決してない。例えば、本作のタイトルの由来にもなっている1930年版のあのラストシーンが、本作ではごっそりと変えられている。このシーンを再現していれば、本作の反戦テーマにより強い説得力が生まれたのではないかと悔やまれる。
一方、本作では、1930年版にはなかったある決定的な展開が描かれている。それは「停戦交渉」である。パウルたちの苛烈な塹壕戦と並行して、ドイツの政治家エルツベルガーとフランス軍元帥フォッシュによる交渉が描かれる。しかし、この停戦交渉が本作では更なる残酷な展開を生むことになるのだが…、ここからの展開は、ぜひとも本編を見てほしい。
さて、第一次世界大戦から100年余りを経た現代。ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、戦争は未だに世界のあちこちで行われている。人類が戦争をやめない限り、本作は不朽の名作として、未来永劫輝き続けるのかもしれない。
(文・柴田悠)